村芝居

     ◦村芝居お宮の鬘転がりて
(むらしばいおみやのかつらころがりて)
 役者は村人
 この場合だし物は「金色夜叉」である。舞台は熱海の海岸、貫一に蹴られたお宮は転ぶが鬘が脱げてしまった。「ああ、上田村の米和じゃないか」観客は普段内気な隣村の青年を見破って大喝采である。

 昭和二十五.六年頃、農協の倉庫がにわか舞台になって、村の青年たちで芝居が打たれた。子供らは方々に米ぬかの飛び散っている板の間に作られた舞台のすぐ側に座布団の席を取って次々繰り広げられる非日常の世界に目を見張っているのである。夜も遅くなってくると、町からやって来た玄人の浪曲師がその舞台を閉じるのが常であったように記憶している。