雪起こし

           〇大杉の伐られし夜の雪起こし

             (おおすぎのきられしよるのゆきおこし)

          

            〇山からの雪起し来る海の町    河童三子

            〇漁師町幾曲がり行く雪起し    々

            〇雪起し鴉伐られし巣を探す    々

     婆ごころ

 

   〈此の一句〉

   〇照るときの伊吹の鞍や雪起し     阿波野青畝

 

雑炊

           〇河豚でなく鴨でもなくて卵のおじや           

             (ふぐでなくかもでもなくてたまごのおじや         

           

            〇弟に食べさすおじや我が口へも   河童三子  

            〇雑炊を粋に思へぬ不幸かな     々

            〇汁物にすぐ飯入れる雑炊癖     々

 

     婆ごころ

 

   〈此の一句〉

   〇雑炊をよろこぶ我は戦中派     森田峠(1924━2013)

  

 

襟巻

            〇マルキスト赤い襟巻してねむる

             (まるきすとあかいえりまきしてねむる)

           

         〇マフラーより出てゐる眼(まなこ)澄めるかな  河童三子

         〇マフラーとニット帽子どもは風の子       々

         〇襟巻して風のない日の散歩かな         々

 

     婆ごころ

 

   〈此の一句〉

     〇桂郎の赤い襟巻畦の数   秋元不死男

 石川桂郎(1909━1975)は好きな俳人である そういえば何かの写真で赤い襟巻をしていたのを見たような気もする その桂郎の句に「昼蛙どの畦のどこ曲らうか」があるが それをふまえての不死男の句だ 秋元不死男(1901━19779)はレッドパージ思想統制)で投獄された人である 桂郎の赤い襟巻にマルキストを象徴したのであろうか 桂郎自身は「俳人風狂列伝」を書いた人ではあるが まるきり市井の人であった。(ブルばあちゃん)

冬帽子

           〇冬帽子夜勤あがりの朝の街

              (ふゆぼうしやきんあがりのあさのまち)

            

            〇二ット帽肩竦(すく)め行く雪空の下   河童三子

            〇ロシア帽ウオッカ呑めば労働歌     々

            〇冬帽子ボルサニーノのデカプリオ    々

     婆ごころ

 

  〈此の一句〉

   〇磔像の前冬帽を鷲掴み     山田弘子

 この句で思い出すのは バチカン大聖堂の「ピエタ像」の前に立った時 思わずこれを経験してしまった事である 教会では男性は帽子を脱がなければならないが 女性は脱がなくてもよい習慣があって 旅先で帽子が頭の上にあるのは日常のことで バチカンでも私は帽子は脱がなかった が マリアがキリストを抱いている像(ラピエタ)の前に来た時 思わず帽子を取って胸に当てた その時偶然横に修道僧が見ていて 私にクルスで祝福してくれたのだ その僧と一瞬呼応した不思議な衝動にも胸が熱くなっていた。 (ブルばあちゃん) 

漱石忌

           〇坊ちゃん湯朝の太鼓や漱石忌

          (ぼっちゃんゆあさの太たいこそうせききそうせきき)

          

           〇イギリスはいつも傘さす漱石忌   河童三子

           〇其れからは未読のままに漱石忌   々

           〇湯上がりに絣着てみる漱石忌    々

 

     婆ごころ

 

   〈此の一句〉

     漱石忌洋間の冷えに爪立ちて     鍵和田ゆう子

 漱石は第五高等学校で英語の教師をしている時(34歳) 文部省の給費留学生としてイギリスへ留学します ところが自身の英語は全く通じず 支給された費用の殆どを本代に使って生活は貧しく じめじめした冷たい部屋で 殆ど鬱状態になっていたというのです そんな漱石のイギリス留学時代の様子を想像して作ったのでしょうか。 (ブルばあちゃん)

 

冬の月

            〇鴨川に首垂るる鷺冬の月 

              (かもがわにくびたるるさぎふゆのつき)

         

            〇浄土寺の鐘楼高く冬の月     河童三子 

            〇冬の月二匹の猫が屋根の上    々

            〇子狐の母待つ空に冬の月     々

 

     婆ごころ

 

  〈此の一句〉

   長安の糸より細き冬の月     有馬朗人

  有馬明人は東大総長 文部大臣などの要職を持つ一方 俳句を嗜んだ人である。

 長安は長大な歴史をもつ中国の都である 朗人自身が実際に 長安で眺めた月を詠んだのかどうかは定かでないが その悠久の都に見た冬の月は糸よりも細かったというのである 国の歴史も人の人生も 常に新しく循環するものである。 氏の物理学者の目は 澄み切っていて冷静且つ人間的な温かみにも満ちている。 (ブルばあちゃん)

納め句座

            〇来年もがんばりませう納め句座

              (らいねんもがんばりませうおさめくざ)

           

            〇ネット句に人柄見へて納め句座    河童三子

            〇納め句座石の上にも三年や       々

            〇納め句座きりっと締まる句も出来ず   々

 

     婆ごころ

 

 〈此の一句〉

    〇恙なく一門揃ふ納句座     吉野濃菊

 「納め句座」という季語は歳時記には載っていない。一年の最後に開く句会の場を言うのであろう。初句会があるのだから 納め句座もあってもいいだろう。

 それぞれに今年一年に作ったお互いの句を語り合い 反省したり来年に向けての意気込みなどを発表したり 最後だから食事やお酒が前にあるかもしれないね。 (ブルばあちゃん)