多喜二の忌

○多喜二の忌 (たきじのき)

春の潮

○春の潮 (はるのしお)

如月

○如月の風つよき日に汝は生るる (きさらぎのかぜつよきひにながうるる) ○如月やベッドの中でシベリウス 秋甫 ○如月の風テレビ塔鳴らし行く 々 ○如月や風邪に罹るなクルーズ船 々

梅二月

○梅二月四十を過ぎた娘の誕生日 (うめ二がつしじゅうをすぎたこのたんじょうび) ○梅二月青葉城址の樹にも来よ 秋甫 ○梅二月白梅の蕊芯通す 々 ○梅二月一呼気に愛立たしめよ 々

獺の祭

○獺祭の独り気儘に身の辺り (だっさいのひとりきままにみのあたり) ○満月の潮の釣果に獺祭 秋甫 ○獺祭に出て来よ日本獺よ 々 ○ひとり居の気楽さに獺の祭 々

蕗の薹

○蕗の薹知らぬふりして手を繋ぎ (ふきのとうしらぬふりしててをつなぎ) ○この旬の天婦羅ならば蕗の薹 秋甫 ○蕗の薹苦きは疎開育ち故 々 ○蕗の薹摘む手に犬の鼻が来て 々

菠薐草

○根の赤く太きが旨し菠薐草 (ねのあかくふときがうましほうれんそう) ○オリーブが大変ポパイの菠薐草 秋甫 ○あのころの菠薐草はパーフェクト 々 ○アメリカのほうれん草は缶の中 々

匂ひ草

○匂ひ草八堂山に訪ね来て (におひくさはちどうやまにたずねきて) ○七折に小梅の花や梅まつり 秋甫 ○梅の香に誘われて来る目白かな 々 ○梅錦てふ酒蔵に梅の花 々

下萌

○下萌や日切り地蔵に願かけて (したもえやひきりぞぞうにがんかけて) ○陸奥に大願成就草萌ゆる 秋甫 ○お地蔵の笑顔に今朝の草青む 々 ○下萌て年々歳々同じからず 々

建国日

○あの時は紀元は二千六百年 (あのときはきげんはにせんろっぴゃくねん) ○建国日顎はる吾は縄文人 秋甫 ○八百万の神をいただき建国日 々 ○紀元節二千六百年八十年 々

早春

○風の想ひ早春の木々に囁く (かぜのおもいそうしゅんのきぎにささやく) ○静寂に早春の獣目覚めけり 秋甫 ○早春の淡き夢胸にとどめよ 々 ○早春や川のささやき野が聞けり 々

余寒

○開けて見た郵便受けの余寒かな (あけてみたゆうびんうけのよかんかな) ○受験子の蒲団の中の余寒かな 秋甫 ○寝座にゐて余寒明りの思案かな 々 ○猫が物落として走る余寒かな 々

春の猫

○春猫のこの場合ノラ猫がいい (はるねこのこのばあいノラねこがいい) ○春の猫それはまたそれ猫でもなし 秋甫 ○恋猫のもののみごとに窶れけり 々 ○憑きものが落ちれば仕舞猫の恋 々

春待つ

○することも無き春しきり待たれるや (することもなきはるしきりまたれるや) ○待春や黄色い財布買いにけり 秋甫 ○待春に親の気子の気移ろへり 々 ○万象の春待つ気配地に満ちる 々

海苔

○封切れば海苔芳しき朝餉かな (ふうきればのりかぐわしきあさげかな) ○荒磯の岩海苔採るや日本海 秋甫 ○岩海苔の乾けば海女の手のごとし 々 ○頬かぶりして岩海苔採りの礁に這う 々

金縷梅の花

○金縷梅の花きらきらと金髪娘 (まんさくのはなきらきらときんぱつむすめ) ○金髪に振り向けば金縷梅の花 秋甫 ○陸奥の万作咲くやポンポンと 々 ○無秩序に金縷梅の花咲きにけり 々

立春

○タミフルに熱も下がりて春立ぬ (タミフルにねつもさがりてはるたちぬ) ○立春の日の上空に寒気来る 秋甫 ○熱冷めて朝の窓より春立ぬ 々 ○立春の光背にして老ふたり 々

節分

○大津絵の鬼も加勢に節分会 (おおつえのおにもかせいにせつぶんえ) ○節分の鬼のパンツの小さきけり 秋甫 ○節分の夕餉に煮るや年の豆 々 ○節分の豆鉄砲に鳩の来て 々

○柊挿し猫に鰯をねだられる (ひいらぎさしねこにいわしをねだられる) ○昼餉の潤目柊に挿しにけり 秋甫 ○柊挿す母の実家は忍者の里 々 ○柊挿す入口に鍵かけてある 々

雪割草

○雪割草けふ松山のお椿さん (ゆきわりそうきょうまつやまのおつばきさん) ○雪割草その名を恋ふる雪の上 秋甫 ○子も孫も冬の生まれに雪割草 々 ○暖冬の野にやすやすと雪割草 々

冬草

○冬草や地を這う上へ陽のひかり (ふゆくさやちをはううえへひのひかり) ○冬草や驚くほどに根の長し 秋甫 ○長き根を真っすぐ伸ばす冬の草 々 ○長らえて地を這うもよし冬の草 々

寒造

○寒造伏水の深井汲み上げて (かんづくりふしみのふかいくみあげて) ○試飲とて大吟醸の寒造 秋甫 ○酒米の研ぎ清まされし寒造 々 ○寒造杜氏の胸のさくら色 々

寒灯

○受験子の窓寒灯の佳境かな (じゅけんしのまどかんとうのかきょうかな) ○寒灯消し深夜ラジオに聞き変える 秋甫 ○飛行機の灯の流れ行く冬の窓 々 ○寒灯の疎らに湾の闇迫る 々

寒の水

○寒の水わが身の内の一志かな (かんのみずわがみのうちのいっしかな) ○陸奥に一穢とてなき寒の水 秋甫 ○猜疑なき心もて呑む寒の水 々 ○石鎚の伏流水現れ寒の水 々

寒菫

○寒菫やっぱりしゃがまないで行こう (かんすみれやっぱりしゃがまないでいこう) ○物陰を好まぬまでも冬菫 秋甫 ○冬菫その身のほどの高さかな 々 ○冬菫明日も同じ空の下 々

寒雀

○寒雀嫗も交りフラダンス (かんすずめおうなもまじりフラランス) ○雨の日は一羽も来ずに寒雀 秋甫 ○寒雀囮の籠に米撒かれ 々 ○寒雀神田の書肆に古地図見る 々

初天神

○牛撫でて胸の願書や初天神 (うしなでてむねのがんしょやはつてんじん) ○初天神去年の鷽も捨てがたし 秋甫 ○鷽替へて空の巣になる寂しみも 々 ○陸奥へ行く絵馬なども初天神 々

寒卵

○寒卵受精の有無は問われざり (かんたまごじゅせいのうむはとわれざり) ○昨日から雨降って寒卵割る 秋甫 ○寒卵孫にも在りぬ賞味期限 々 ○寒卵産めよと鶏舎夜もなし 々

冬の虹

○母の文字記憶になくて冬の虹 (ははのもじきおくになくてふゆのにじ) ○兄が母の手を引き渡る冬の虹 秋甫 ○軒先に魚捌きをり冬の虹 々 ○時雨虹昏き海より立ち上がる 々

悴む

○悴む子目が母に似て我に似ず (かじかむこめがははににてわれににず) ○悴むや老いてよすがに転がりぬ 秋甫 ○叱られて目つむる猫の悴めり 々 ○首手足引っ込めて亀悴める 々