春猫

〇一瞬に砂利けり上げし春の猫 (いっしゅんにじゃりけりあげしはるのねこ) 〇恋人は斬られの与三や春の猫 河童三子 〇春猫は略奪婚を通しける 々 〇

絵踏

〇絵踏すませて生まれしか信仰を得ず (えふみすませてうまれしかしんこうをえず) 〇ただ生きて絵踏の苦難知らざるも 河童三子 〇世の中の何の絵踏をせよとかや 々 〇絵踏とて子規の横顔夢に見し 々

春立ちぬ

〇ヒヤシンス根が目に見えて春立ちぬ (ヒヤシンスねがめにみえてはるたちぬ) 〇白湯飲めば茶柱もなき春立ちぬ 河童三子 〇立春と言われて畑の大根立つ 々 〇立春やきのうの鰯くれと猫 々

節分

〇節分の柊いわし猫招く (せつぶんのひいらぎいわしねこまねく) 〇節分の一人の昼餉恵方向く 河童三子 〇節分や柊の棘溌剌と 々 〇節分会赤鬼が出す招待状 々

煮凝り

〇煮凝の鯛の目玉を琥珀とや (にこごりのたいのめだまをこはくとや) 〇煮凝に標本のごとあばら骨 河童三子 〇懐かしき思いでに似て煮凝ぬ 々 〇いつか星になる煮凝のエキスかな 々

春隣

〇生水に若菜洗ふや春隣 (しょうずいにわかなあらうやはるとなり) 〇目刺焼く昼餉の煙春隣 河童三子 〇校門にひよこ売りゐて春近し 々 〇春隣スパナ探して見つからず 々

日脚伸ぶ

〇日脚伸ぶ真西へ車走らせる (ひあしのぶまにしへくるまはしれせる) 〇目に見えて予後の窓辺に日脚伸ぶ 河童三子 〇日脚伸ぶ夕餉の支度伸ばしけり 々 〇日脚伸ぶ歩け歩けと後押す子 々

寒の月

○寒の月恋猫帰る道照らす (かんのつきこいねこかえるみちてらす) ○バラックに寝る子を偲ぶ寒の月 河童三子 ○寒の月炊き出しの火に人盛り 々 ○沖を行く客船の灯や寒の月 々

寒の水

〇今朝淹れし珈琲の湯や寒の水 (けさいれしコーヒーの湯やかんのみず) 〇珈琲に期間限定寒の水 河童三子 〇生水のコップ一杯寒の水 々 〇乳房なき骨身に刺さる寒の水 々

凍瀧

〇万有の引力に耐へ瀧凍つる (ばんゆうのいんりょくにたえたきいつる) 〇凍瀧や膨らんでいく宇宙かな 河童三子 〇凍滝のただ静謐に刻きざむ 々 〇凍瀧に抗らふ力漲りて 々

石蓴

〇今朝の香に荒磯浦の石蓴汁 (けさのかにあらいそうらのあおさじる) 〇朝餉の香豆腐刻んで石蓴汁 河童三子 〇遅れ掻く石蓴に砂を咬ますかな 々 〇ゆっくりと潮くる兆し石蓴摘み 々

〇ぼた餅もて王子狐に詫び申す (ぼたもちもておうじぎつねにわびもうす) 〇王子の狐騙されし身を嘆くかな 河童三子 〇十字狐胸のクロスで神となる 々 〇靴咥へ夜の狐が暗躍す 々

初天神

〇初天神飛梅の木に人の柵 (はつてんじんとびうめのきにひとのさく) 〇成就あり不成就もあり初天神 河童三子 〇舞妓らも歌舞練場より初天神 々 〇願ひごと忘れ鈴ふる初天神 々

〇雪雲の降りて幕間の大道具 (ゆきぐものおりてまくまのおおどうぐ) 〇へらへらと庭ふる雪も野に激し 河童三子 〇風止みてほわりほわりと夜の雪 々 〇夜もすがらかたかた囃す雪起こし 々

冬の海

〇座礁船残して昏るる冬の海 (ざしょうせんのこしてくるるふゆのうみ) 〇単線の駅舎に立てば冬の海 河童三子 〇冬の海松の落ち葉を吹き寄せる 々 〇冬海を見せて港の糶(せり)仕舞ふ 々

茶の花

〇茶の花の日当たりにある無欲かな (ちゃのはなのひあたりにあるむよくかな) 〇お茶の花今年もここに咲いている 河童三子 〇厭わしく思ふ日もありお茶の花 々 〇お茶の花犬跳び越えて猫くぐる 々

初大師

〇初大師京に東寺の我楽多市 (はつだいしきょうにとうじのがらくたいち) 〇発心の霊山寺にて初大師 河童三子 〇初大師餡たっぷりの鶴亀焼 々 〇初大師歩いて知るや太子堂 々

大寒

〇大寒や崖よじ登る夢の中 (だいかんやがけよじのぼるゆめのなか) 〇大寒の一日猫を見ぬ日なり 河童三子 〇大寒やスイフトを読み上機嫌 々 〇大寒の烏やっぱり一羽でゐる 々

冬の月

〇アルテミス夢乗せて行く冬の月 (アルテミスゆめのせていくふゆのつき) 〇冬の月うさぎ餅つく未来都市 河童三子 〇この地球(ほし)の冬懐かしむ月の街 々 〇生き生きと冬満月の蒸気かな 々

火事

〇明暦の振袖火事といふ説話 (めいれきのふりそでかじというせつわ) 〇特急を田んぼに停める朝の火事 河童三子 〇火事の後家人消息ついに知れず 々 〇取り合えず毛布など持ち火事見舞 々

寒烏

〇寒烏墨の衣に七つの子 (かんがらすすみのころもにななつのこ) 〇電柱に阿々と歎息寒烏 河童三子 〇打ち上がる鰯弔ふ寒烏 々 〇寒烏からりと晴れし日をためぬ 々

雪女

〇スマホ持て山降りくるよ雪女 (スマホもてやまおりくるよゆきおんな) 〇すうと来る首に冷たき雪女 河童三子 〇混浴に雪女見し万座の湯 々 〇夜話の後ろに座る雪女 々

凍蝶

〇凍蝶の崩れずにある午後の影 (いてちょうのくずれずにあるごごのかげ) 〇凍蝶は死の形して止まりをり 河童三子 〇凍蝶やきのふの雨の雫吸うか 々 〇凍蝶の静寂のこちら側にをり 々

寒念仏

〇寒念仏団扇太鼓の音と行く (かんねんぶつうちわだいこのおとといく) 〇姉小路蛸薬師へと寒念仏 河童三子 〇路地を出て寒念仏に加わりぬ 々 〇寒念仏次第次第に声揃ふ 々

〇大津絵の鬼に傘遣る霙かな (おおつえのおににかさやるみぞれかな) 〇奈良びとの祖父懐かしむ霙酒 河童三子 〇霰おく白を霙が消してゆく 々 〇霙ふり美しきもの流しけり 々

松過ぎ

〇松過ぎて届く賀状も五六枚 (まつすぎてとどくがじょうもごろくまい) 〇しっとりと時雨もよきや松過ぎし 河童三子 〇松過ぎぬカレーに添えし福神漬け 々 〇松過ぎて磯浦の涛音をきく 々

吉書

〇傘寿なる日記のはじめ吉書とす (さんじゅなるにっきのはじめきっしょとす) 〇醴泉銘書写する吉書筆立ちぬ 河童三子 〇初筆や王義之の金壁の文字 々 〇書初の筆に狸の尻尾でる 々

〇皹ぐすり売る口上の筑波山 (ひびぐすりうるこうじょうのつくばさん) 〇母追ひし頬きる皹や涙の子 河童三個 〇皹の手を机の角に掻きし日々 々 〇踵の皹がまの油を塗りこみぬ 々

鴨の陣

〇石鎚に雲走らせて鴨の陣 (いしづちにくもはしらせてかものじん) 〇本陣はどっちへ向くや鴨の陣 河童三子 〇鴨の陣磧に並ぶ歩兵隊 々 〇鴨の陣朝の就労仕分刻 々

寒卵

〇始業の日ゆげの白めし寒卵 (しぎょうのひゆげのしろめしかんたまご) 〇咳の日も熱の日もみな寒卵 河童三子 〇土喰らふ鷄よりもらふ寒卵 々 〇寒卵鷄も大事と抱きをり 々