花魁草

〇にごりえのお力哀しや花魁草 (にごりえのおりきかなしやおいらんそう) 〇花魁草むかし郭の紅蒲団 河童三子 〇花魁草簪(かんざし)は吾身突くため 々 〇こんな田舎に花魁草の咲いている 々

海亀の子

〇海亀の子のひらひらと海へ出る (うみがめのこのひらひらとうみへでる) 〇海亀の子の砂噛んで生まれ出る 河童三子 〇波めざす海亀の子の砂まみれ 々 〇大波の来て海亀の子攫はるる 々

夕立

〇サンマルコ乞食も走る夕立かな (サンマルコこじきもはしるゆだちかな) 〇夕立や駆け込む舖のジェラート買う 河童三子 〇夕立に飛び込む仮面舞踏会 々 〇硬貨投げるトレブュの泉夕立中 々

土用の丑

〇鰻重の照かりいよ増す土用丑 (うなじゅうのてかりいよますどよううし) 〇土用鰻通の顔して白焼に 河童三子 〇太郎鰻次郎は蜆土用の日 々 〇生きぬいて土用の丑の鰻かな 々

遠雷

〇雷神の飛び交ふ雲の彼方かな (らいじんのとびかうくものかなたかな) 〇ペン持ったまま遠雷に耳澄ます 河童三子 〇遠雷に便り持たせて遣りにけり 々 〇遠雷や吾を久遠へ誘へり 々

〇薄衣着けて雅に蝉生まる (うすごろもつけてみやびにせみうまる) 〇蝉丸といふ琵琶法師ゐて蝉しぐれ 河童三子 〇殻脱けて聲整へる蝉のとき 々 〇唖蝉の己が脱け殻愛ほしむ 々

炎昼

〇アーザンが炎昼の祈り嗾す (アーザンがえんちゅうのいのりそそのかす) 〇水を買う砂漠の民の炎昼に 河童三子 〇炎昼のカッパドキアの洞窟の舖 々 〇炎昼や駱駝が乗れと脚を折る 々

月見草

〇夕月の登りて浜は月見草 (ゆうづきののぼりてはまはつきみそう) 〇繰り返す波音近し月見草 河童三子 〇月見草朽ち船一つ暮れなずむ 々 〇月見草今朝の別れを惜しむかな 々

夏の潮

〇源平の屋島めぐりや夏の潮 (げんぺいのやしまめぐりやなつのしお) 〇離岸流浮き輪に漂流夏の潮 河童三子 〇鯨見るポンポン船や夏の潮 々 〇一匹の夏の鰯で泳ぐかな 々

梅雨明け

〇頂上の雲払はれて梅雨明くや (ちょうじょうのくもはらわれてつゆあくや) 〇梅雨明くや最南端の駅に立つ 河童三子 〇梅雨明けて月まん丸く出てをりぬ 々 〇梅雨明くや我が目力の視界かな 々

涼し

〇朝涼へ仕事あがりし夜勤組 (あさすずへしごとあがりしやきんぐみ) 〇涼しさや座を抜けてゆく海の風 河童三子 〇涼しさや読経の声のホーミーに 々 〇仏間開け仏涼しく解き放す 々

団扇

〇床の間に国芳の絵の団扇かな (とこのまにくによしのえのうちわかな) 〇丸亀に匠の技の渋団扇 河童三子 〇くすり屋は団扇残してマックとや 々 〇半切りの飯は斬られて渋団扇 々

〇水まわりよき田圃称へる蛙かな (みずまわりよきたんぼたたえるかえるかな) 〇底なしの沼のそこより牛蛙 河童三子 〇梅雨明け間近蛙の声が切迫す 々 〇寝足りて蛙と夜の本を読む 々

蜘蛛の囲

〇蜘蛛の囲に露のビーズを通しけり (くものいにつゆのビーズをとおしりけり) 〇蜘蛛の囲や幾何学なんてとんでも無い 河童三子 〇蜘蛛の囲の未完の儘に捨てをかる 々 〇蜘蛛の囲や真ん中を施主が占め 々

夜店

〇烏賊焼いて鼻をくすぐる夜店かな (いかやいてはなをくすぐるよみせかな) 〇手相見る行灯一つ夜店の灯 河童三子 〇古本を茣蓙に並べて夜店出す 々 〇モネの絵もモナリザもある夜店かな 々

木下闇

〇木下闇五百羅漢の鎮もれる (こしたやみごひゃくらかんのしずもれる) 〇雲の上五百羅漢の木下闇 河童三子 〇羅漢らに哀楽もあり木下闇 々 〇木下闇吾を手招く羅漢かな 々

百合

〇山百合に出迎えられしモネの庭 (やまゆりにでむかえられしモネのにわ) 〇プランターの破れ鬼百合咲きにけり 河童三子 〇山百合の今年も庭に来て咲くや 々 〇車百合裾をはしょいで駆け出すか 々

夏燕

〇海原や竜馬の像に夏燕 (うなばらやりょうまのぞうとなつつばめ) 〇黒潮の上を飛びけり夏燕 河童三子 〇太平洋見せて子育て夏燕 々 〇夏燕南国土佐を後にする 々

睡蓮

〇モネの庭模す里山の睡蓮咲く (モネのにわもすさとやまのすいれんさく) 〇睡蓮の目覚めに合わせ池めぐる 河童三子 〇牧童に熟寝(うまい)の午後や未草 々 〇明日開く睡蓮の夢みて眠る 々

烏瓜の花

〇烏瓜魔女の紡ぎし花ならむ (からすうりまじょのつむぎしはなならむ) 〇烏瓜咲かす匠に畏怖の念 河童三子 〇烏瓜咲いて魔界は宴かな 々 〇儚くも一夜の花に烏瓜 々

七夕 

〇七夕の短冊さびし句読点 (たなばたのたんざくさびしくとうてん) 〇星まつり天の川にも橋架かる 河童三子 〇星祭南十字星にこがれ 々 〇七夕や持ってゆく恋二つほど 々

落とし文

〇落とし文高野七口女人径 (おとしふみこうやななくちにょにんみち) 〇落とし文気づかれずまた落とし文 河童三子 〇捨て置かれみごとに孵る落とし文 々 〇K君の机の上に落とし文 々

沙羅の花

〇庭を掃く作務搏つやうに沙羅の花 (にわをはくさむうつやうにさらのはな) 〇沙羅双樹散って広がる寂光土 河童三子 〇最果てや寂しく白い沙羅双樹 々 〇沙羅散るや諸行無常の美しく 々

半夏生

〇朝焼けに草木もえ出す半夏生 (あさやけにくさきもえだすはんげしょう) 〇半夏生さぬきの主うどん打つ 河童三子 〇百姓の縁に爪切る半夏生 々 〇半夏生鍋に団子の蒸しあがる 々

〇胸元の汗の似合いし漢かな (むなもとのあせのにあいしおとこかな) 〇次の世は汗の似合し漢にと 河童三子 〇良き汗をみんな流した昭和かな 々 〇鉢巻で汗拭く大工棟あがる 々

梅雨晴れ間

〇梅雨晴れ間カッコウと鳴る信号機 (つゆはれまカッコウとなるしんごうき) 〇一斉に虫も出てゐる梅雨晴れ間 河童三子 〇梅雨晴れ間小窓より入る細き風 々 〇梅雨晴れ間沖の小舟を確かめる 々

山開き

〇頂上の神の宮入り山開き (ちょうじょうはかみのみやなりやまびらき) 〇背負われて神登り行く山の宮 河童三子 〇石鎚の神は雨好き山開き 々 〇山開き神を背負って飛ぶ如く 々

烏の子

〇子烏のヤコブと呼ばれママっこで (こがらすのヤコブとよばれママっこで) 〇六月のカレンダー剥がし子烏発つ 河童三子 〇投げてやる餌に子烏の首傾ぐ 々 〇子烏の瞳に写る世の暗雲 々

夏帽子

〇夏帽子目深に被り予後を行く (なつぼうしまぶかにかぶりよごをいく) 〇背伸びして孫に被せる夏帽子 河童三子 〇夏帽子買って雨の日つづきけり 々 〇遺影の夫麦稈帽子親しめり 々

昼寝

〇大昼寝アンモナイトに足が出て (おおひるねアンモナイトにあしがでて) 〇山海を雨が隠して昼寝かな 河童三子 〇昼ねしてカンブリア紀の海に浮く 々 〇昼ねして海月の時を浮にけり 々