囀り

〇囀りに耳傾ける道祖神 (さえずりにみみかたむけるどうそじん) 〇山仰ぎ山裾に聞く囀りや 河童三子 〇ふるさとの訛りまじりて囀るや 々 〇囀りや近づいて来て旨くなる 々

日脚伸ぶ

〇仰向きし歯医者の椅子や日脚伸ぶ (あおむきしはいしゃのいすやひあしのぶ) 〇窓の外の淡き茜や日脚伸ぶ 河童三子 〇日脚伸ぶ己の寿命ともに延ぶ 々 〇日脚伸ぶ旅行鞄の荷出し入れ 々

芋植う

〇伊予美人てふ芋植るる霄のもと (いよびじんてふいもうるるそらのもと) 〇先生の一家そう出に芋植るる 河童三子 〇ひつじ田を鋤いて今年は芋植るる 々 〇待ちかねて芽を出している芋植るる 々

薺花

〇薺花下の姉から爪弾き (なずなばなしたのあねからつまはじき) 〇薺花撥持ちたがるぺんぺんの 河童三子 〇娘はすぐに女となりぬ薺花 々 〇三味線草雀おどらす日中かな 々

白木蓮

〇はくれんの気迫まっすぐ白通す (はくれんのきはくまっすぐしろとおす) 〇初陣の鉢巻きに似し白木蓮 河童三子 〇白木蓮みな上向いて汚れ無し 々 〇世の中の判官贔屓(はんがんびいき)白木蓮 々

春しぐれ

〇乳取りし胸のくぼみや春しぐれ (ちちとりしむねのくぼみやはるしぐれ) 〇春しぐれ子は傘置いて走り行く 河童三子 〇人形のフランス窓や春しぐれ 々 〇春しぐれ湖水地方のSLに 々

〇雉の目の金環色に菜の花や (きじのめのきんかんしょくになのはなや) 〇雉の頬真紅に出でて急ぎ去る 河童三子 〇ヒマラヤを臨む夕刻きぎす鳴く 々 〇雉鳴くやヒマラヤ深く亡命す 々

水温む

〇絵の中の跳ね橋の下水温む (えのなかのはねばしのしたみずぬるむ) 〇鯰でて髭の自慢や水温む 河童三子 〇ぴちゃぴちゃと飲む猫舌に水温む 々 〇水温む一人芝居の浮世かな 々

三月十一日

〇三階の船体三月十一日 (さんがいのせんたいさんがつじゅういちにち) 〇三月十一日夜は雨降るらし 河童三子 〇揺れるたび三月十一日の記憶 々 〇三月十一日まためざし焼く 々

鳥雲に

〇逢へばまた共に白髪や鳥雲に (あえばまたともにしらがやとりくもに) 家の窓より春曙(朝6時半撮影) 〇恋の詩ひとつとてなし鳥雲に 河童三子 〇鳥雲に番ひて残る山の池 々 〇雲に鳥夜も眠れぬ人の親 々

春曙

〇春曙吾を茜に包みけり (はるあけぼのわれをあかねにつつみけり) 〇塵捨てに行くも豪華や春曙 河童三子 〇胎内の記憶のごとき春曙(しゅんしょ)かな 々 〇春曙送られて出る小船かな 々

涅槃

〇お涅槃や地獄絵を見に急降下 (おねはんやじごくえをみにきゅうこうか) 〇お涅槃の僧のパリ・コレ廻廊練る 河童三子 〇涅槃会や修行の僧の旅装解く 々 〇涅槃会や宇宙の塵を拾ひをり 々

雪柳

〇斑雪庭に斑の小米花 (まだらゆきにわにまだらのこごめばな) 〇祖母の背に負われて温し雪柳 河童三子 〇雪柳朝(あした)に白し塀の内 々 〇小米花登校の子のちらちらと 々

土筆

〇袴着てにぎにぎしくも土筆の列 (はかまきてにぎにぎしくもとくしのれつ) 〇青々と頭剃りたる土筆かな 河童三子 〇手作りの句集あがりしつくづくし 々 〇めいめいに首傾げたる土筆かな 々

啓蟄

〇啓蟄や色香まっすぐ目覚めける (けいちつやいろかまっすぐめざめける) 〇啓蟄や鉦や太鼓をかり出さん 河童三子 〇啓蟄や土竜敲(もぐらたたき)を外すかな 々 〇啓蟄や曇りのち雨となりけり 々

引鴨

〇引鴨ややがて大河の上となる (ひきがもややがてたいがのうえとなる) 〇引鴨へ浚渫船の首を振る 河童三子 〇引鴨や兄妹の無事確かめぬ 々 〇引鴨の遅れて一羽飛び立ちぬ 々

春霙

〇チップ船沖合に待つ春霙 (チップせんおきあいにまつはるみぞれ) 〇釣り糸に兄弟の距離春霙 河童三子 〇コンビニにツーリングの子春霙 々 〇春霙蛇口緩みて流れけり 々

目貼り剥ぐ

〇蜑の家の海見る小窓目貼り剥ぐ (あまのやのうみみるこまどめばりはぐ) 〇目貼り剥ぐ術後のテープ剥ぐごとく 河童三子 〇南北の目貼り剥ぐれば部屋一つ 々 〇目貼り剥ぐ隣家の人の会釈かな 々

石蓴

〇石蓴掻く屈まる母に潮遠く (あおさかくかがまるははにしおとおく) 〇椀に顔ふせて石蓴の香にむせぶ 河童三子 〇磯料理締めはいつもの石蓴汁 々 〇汁の実の葱採るごとく石蓴掻く 々

二月尽

〇南天に実の二つ三つ二月尽 (なんてんにみのふたつみっつにがつじん) 〇三度目の遺言書いて二月尽 河童三子 〇うるうとて寒さいとひく二月盡 々 〇大學の休学届二月尽 々

クロッカス

〇クロッカスの空広々と深々と (クロッカスのそらひろびろとふかぶかと) 〇クロッカス三女は姉に憧れて 河童三子 〇クロッカスフィンランドの妖精と 々 〇いぬねこにのぞかれているクロッカス 々

鶯笛

〇鶯笛思い出はよき音色して (うぐいすぶえおもいではよきねいろして) 〇一人吹く鶯笛に何思ふ 河童三子 〇子ら寄せて鶯笛を作りけり 々 〇鶯笛はるかな目して吹く男 々

春めく

〇春めくや番の鳩のふくみ声 (はるめくやつがいのはとのふくみごえ) 〇地球儀をゆっくり回し春の旅 河童三子 〇春めくや搭乗口のペアルック 々 〇搭乗の案内の声や春めきぬ 々

犬ふぐり

〇犬ふぐり道祖神の目を覚ます (いぬふぐりどうそしんのめをさます) 〇犬ふぐり異国の霄(そら)を思い出す 河童三子 〇大犬ふぐりドーベルマンのかもしれぬ 々 〇犬ふぐり狆かチワワかそぞろ神 々

野焼

〇スサノオの剣に斬るや野焼の炎 (スサノオのつるぎにきるやのやきのひ) 〇神々しき漢(おとこ)の顔や野焼守 河童三子 〇野焼の火司る神を見るかな 々 〇野を焼や炎(ほのお)の神を崇めつつ 々

初音

〇初音聞く正調の粉挽唄かな (はつねきくせいちょうのこびきうたかな) 〇山道は躓くばかり初音聞く 河童三子 〇おっとっと調子ぱずれの初音かな 々 〇吾に似て何と音痴な初音かな 々

恋猫

〇恋猫の雨を窺ふ軒の下 (こいねこのあめをうかがうのきのした) 〇恋猫の濡れて窶れて戻りけり 河童三子 〇朝帰りして昼寝してうかれ猫 々 〇恋猫のチャームポイント貌の疵 々

早春

〇早春や君が蓬髪野に萌えよ (そうしゅんやきみがほうはつのにもえよ) 〇耀きは早春の芽の泪かな 河童三子 〇早春や水面を計る鯉の髭 々 〇早春や森羅万象潤ひて 々

多喜二の忌

〇露国にてまた甦る多喜二の忌 (ろこくにてまtよみがえるたきじのき) 〇雪解けりゃみな露わなる多喜二の忌 河童三子 〇多喜二忌や地の果てに死すナワリヌイ 々 〇大學は休学のまま多喜二の忌 々

雨水

〇裏山を雲に隠して今日雨水 (うらやまをくもにかくしてきょううすい) 〇暖かい風も吹き来て雨水かな 河童三子 〇雨水の日雨風となり窓を搏つ 々 〇雨水の朝沖の小島が濡れてゐる 々