繁縷

○病む街を逃れて来る繁縷の上 (やむまちをのがれてきたるはこべのえ) ○はこべ野

利休忌

○利休忌や幸も不幸も糾える (りきゅうきやこうもふこうもあなざえる) ○利休忌や金の茶室に窒息す 秋甫 ○利休忌の楽にも萩もご縁なく 々 ○利休忌や祖父の点前は甘納豆 々

青き踏む

○爽爽と老うべき日々の青き踏む (そうそうとおうべきひびのあおきふむ) ○予備校生となる今朝の青き踏む 秋甫 ○其々のラストスパート青き踏む 々 ○踏青や石楠花くれしネパールの子 々

山笑う

○釣ぼうず我家を見れば山笑う (つりぼうずわがやをみればやまわらう) ○山笑う裾に我家の窓開きて 秋甫 ○大きな顔は看板なりぬ山笑う 々 ○山笑う障子繕わねばならず 々

鳥帰る

○鳥帰る来年も来よさりながら (とりかえるらいねんもこよさりながら) ○青年の屈折多く鳥帰る 秋甫 ○引鳥や母はただ子に生きよとぞ 々 ○鳥渡る秘密めきたる北の国 々

山椒の芽

○山椒の若木やうやう芽の出づる (さんしょうのわかぎようようめのいずる) ○芽山椒叩かれて香を発憤す 秋甫 ○大棘に守られてゐる木の芽かな 々 ○芽山椒青年と成りてより早し 々

野火

○勢子の後追う形勢に野火走る (せこのあとおうけいせいにのびはしる) ○焼原や石の祠に神の幣 秋甫 ○丘焼く煙剣山を駆け登る 々 ○堤焼いて蕨生るるを待ちにけり 々

四旬節

○バーべキューの灰もて塗るや四旬節 (バーベキューのはいでなべこするしじゅんせつ) ○ウイルスに籠るや灰の水曜日 秋甫 ○黒猫が子を産む灰の水曜日 々 ○仮面買えば隣も同じカーニバル 々

彼岸入り

○彼岸入りロッカーの位牌出されをり (ひがんいりロッカーのいはいだされをり) ○抜けかけの前歯引っぱる彼岸餅 秋甫 ○落ちた歯を小箱に入れて彼岸晴る 々 ○何時か乗る漕ぎ手櫓もなき彼岸舟 々

春霞

○春霞こころ迷へば深かりし (はるがすみこころまよえばふかかりし) ○霞引く桜の園のラストシーン 秋甫 ○老ひし目にしっとりとある霞越し 々 ○洛北の山裾包む春霞 々

霾天

○霾天や駱駝に日銭稼がせて (ばいてんやらくだにひぜにかせがせて) ○霾(つちふ)るや日々埋め戻すスフィンクス 秋甫 ○薶曇(よなぐもり)駱駝乗る娘の付け睫毛 々 ○黄塵の長城を越え来たりけり 々

鳥曇

○癈目の見上げる空の鳥曇 (しいれめのみあげるそらのとりぐもり) ○遠山に雪見る今朝の鳥曇 秋甫 ○孫の部屋空くことなきや鳥曇 々 ○鳥曇並びて歩む家鴨(あひる)かな 々

春雷

○三月雷深夜ラジオを消して去る (さんがつらいしんやらじおをけしてさる) ○春雷に明けて朝(あした)の風冷えに 秋甫 ○春の雷去ってパソコン立ち上がらず 々 ○春雷の一鳴り覚めよ眠れる子 々

草餅

○草餅の彩より香り買いにけり (くさもちのいろよりかおりかいにけり) ○石手寺におやきと言ひて蓬餅 秋甫 ○草餅を届けてくれた婆々は亡く 々 ○草餅や昔の道は一つきり 々

芋植う

○休校の子も出て一家芋植うる (きゅうこうのこもでていっかいもううる) ○元校長件(くだん)の芋を植えにけり 秋甫 ○種芋の芽の上に土深く着せ 々 ○昔日の吾天秤に種芋と 々

薺花

○薺花世はウイルスに閉じ籠り (なずなばなよはウイルスにとじこもり) ○べったりと在れば疲るる薺花 秋甫 ○薺花悲しい時は悲しみに 々 ○時来ればぺんぺん草の飛びゆかむ 々

土筆

○中辺路に摘みし土筆が夢にでて (なかへじにつみしつくしがゆめにでて) ○土筆摘めば胞子となりて君は飛ぶ 秋甫 ○ここの野を明日は飛び立つ土筆かな 々 ○土筆摘み在所問われて詰まりけり 々

春の雨

○明け方の屋根の光るや春の雨 (あけがたのやねのひかるやはるのあめ) ○北山の裾野も濡らす春の雨 秋甫 ○春雨や雲竜登る峰の峪 々 ○春雨や双ヶ丘の心療院 々

山椒の芽

○山椒の芽を確かめて夢つなぐ (さんしょうのめをたしかめてゆめつなぐ) ○山椒の枯木と紛うほどに芽を 秋甫 ○薔薇の芽や少し間のあり吾寿命 々 ○薔薇の芽に早や目をつけし小鳥たち 々

初蝶

○初蝶のよぎる白さや麦の畑 (はつちょうのよぎるしろさやむぎのはた) ○何気なくやり過ごし初蝶と覚ゆ 秋甫 ○初蝶や白菜にもう花咲いて 々 ○初蝶の何かに迷う如くでて 々

○赤き冠もて北雉にならんとす (あかきかむりもてきたきじにならんとす) ○毎年に裏畑歩く雉(きぎす)かな 秋甫 ○雉の尾のしだりに空を翔び立てず 々 ○妻恋の雉歩み行く春の雨 々

春塵

○春塵となる駱駝の糞へ帽子飛ぶ (しゅんじんとなるラクダのふんへぼうしとぶ) ○信楽の狸のふぐり春埃 秋甫 ○春塵やシュレッドするレジシート 々 ○ネパールに笛売る男春の塵 々

耕す

○耕して田の真ん中に神おきぬ (たがやしてたのまんなかにかみおきぬ) ○耕せる見返り美人トラクターに 秋甫 ○耕す人種まく人や虹の中 々 ○腰丸く耕しつづけ婆逝けり 々

春火燵

○掃除してまた潜り込む春火燵 (そうじしてまたもぐりこむはるごたつ) ○春火燵想定外は常のこと 秋甫 ○決断を鈍らせてゐる春火燵 々 ○今日は今日明日は明日春火燵 々

春の宵

○稍男時どき女春の宵 (ややおとこときどきおんなはるのよい) ○ロックした解除忘れし宵の春 秋甫 ○春宵や三倍速の忘却に 々 ○てにをはにうかうか過ぎぬ春の宵 々

ひな祭り

○汐くみも糸まきも出て座敷雛 (しおくみもいとまきもでてざしきびな) ○さかしまの男雛箱より出してやる 秋甫 ○雛祭り来年こそは揃ひ来よ 々 ○吾が後に居場所もあらむ雛の荷 々

三月

○三月や疫病という大嵐 (さんがつやえきびょうというおおあらし) ○三月や観戦者なきオープン戦 秋甫 ○三月のウイルスに街奪われる 々 ○三月や別れの曲も家々に 々

二日灸

○小栗栖に甲賀の叔母の二日灸 (おぐりすにこうかのおばのふつかきゅう) ○二日灸さてこれからと立ち上がる 秋甫 ○坊さんに火つけてもらう二日灸 々 ○二日灸みな膝抱いて並びけり 々

春禽

○春禽の遊びごころに喜べり (しゅんきんのあそびごころによろこべり) ○春禽や稚児の眦(まなじり)紅引いて 秋甫 ○春禽に雨の一日を安ませる 々 ○軒よりは野に出て春の小鳥かな 々

春曙

○春曙乾坤一擲野に出でよ (はるあけぼのけんこんいってきやにいでよ) ○春暁や君を発たせる灯をつけし 秋甫 ○春曙いかなご漁の船二隻 々 ○春暁やほのぼの心晴れてゐし 々