芋の秋

○廊下まで新聞敷いて芋の秋 (ろうかまでしんぶんしいていものあき) ○嵐きて掘り残したる芋の畝 秋甫 ○半日を子芋剥く手こむら返る 々 ○男作者の句は多かりき芋の秋 々

曼珠沙華

○曼珠沙華咲いて彼岸の入りとなる (まんじゅしゃげさいてひがんのいりとなる) ○蜘蛛が囲を掛けて一間の曼珠沙華 秋甫 ○散骨の骨残れるや彼岸花 々 ○幽霊花白着て出ればなお哀れ 々

子規忌

○漫録の読みあがらずに子規忌かな (まんろくのよみあがらずにしききかな) ○子規の本ひろげてみるや獺祭忌 秋甫 ○子規の顔瓢箪に似て糸瓜の忌 々 ○子規も虚子も伊予の人なり天高し 々

刈萱

○葺き替えの刈萱挿すや結の顔 (ふきかえのかるかやさすやゆいのかお) ○刈萱の大屋根上がる村の寺 秋甫 ○萩寺の屋根葺き替に萱積まれ 々 ○萩の縁藜の杖の置かれけり 々

秋の蠅

○秋蠅に人なつっこく寄られけり (あきばえにひとなつっこくよられけり) ○一匹を二日も追ひぬ秋の蠅 秋甫 ○老搏つに二日かかりぬ秋の蠅 々 ○蠅叩き知っていたのか秋の蠅 々

吾亦紅

○吾亦紅淋しいですと揺れてゐる (われもこうさびしいですとゆれている) ○吾亦紅インスタ映えを拒みをり 秋甫 ○吾亦紅昭和気質の町屋かな 々 ○細き首危うく継なぐ吾亦紅 々

色鳥

○色鳥の音もいろいろに朝餉の窓 (いろどりのねもいろいろにあさげのまど) ○色鳥の昼もまだゐて歌いをり 秋甫 ○色鳥や湧水に豆腐売られる 々 ○色鳥の校庭にリレー競争囃す 々

秋茄子

○秋茄子の剪り戻されて寂しき実 (あきなすのきりもどされてさびしきみ) ○秋茄子は身欠き鰊と煮びたしに 秋甫 ○濃紺に糠床染める秋茄子 々 ○糠床に母の差し込む秋茄子 々

蟋蟀

○蟋蟀にコロラトゥーラの魔笛かな (こおろぎにコロラトゥーラのまてきかな) ○閻魔蟋蟀厠の鬼門にて鳴ける 秋甫 ○蟋蟀の課題いただき篤と聞く 々 ○蟋蟀や漫録に髭のことなど 々

放生会

○うなぎ屋の鰻三匹放生会 (うなぎやのうなぎさんびきほうじょうえ) ○蛍など一万二千の放生会 秋甫 ○放生会水面に鳥の来て待てる 々 ○セレモニーの鳩放たれる放生会 々

秋暑し

○秋暑しグランドに笛鳴りつづく (あきあつしグランドにふえなりつづく) ○箒草赤くなる手も秋旱 秋甫 ○秋旱とて種播かざるは無信仰 々 ○漁師家の迷路の先の秋暑かな 々

蟷螂

○カマキリの腰の括れや肉食系 (カマキリのこしのくびれやにくしょくけい) ○いぼむしり鼻にできたる兄の疣 秋甫 ○頼むならその斧仕舞へ疣むしり 々 ○古蟷螂猜疑の心色に出し 々

蓼の花

○露濡るる径来て果の蓼の花 (つゆぬるるみちきてはてのたでのはな) ○犬蓼のふし節に花涼しとも 秋甫 ○蓼酢とは淡緑なる秋の池 々 ○大蓼の穂のゆさゆさと大女将 々

黍嵐

○すずめらの流されてゐる黍嵐 (すずめらのながされているきびあらし) ○黍嵐果つれば哀れ古戦場 秋甫 ○芋嵐子をみつけては見失う 々 ○芋の葉の傘にもならぬ芋嵐 々

秋耕

○秋耕の畝真っすぐな鍬使ひ (しゅうこうのうねまっすぐなくわづかい) ○秋耕や夕陽かかりて母息子 秋甫 ○秋耕の人に落暉の影長し 々 ○秋耕の一日暮れて小鳥くる 々

秋の蚊

○秋の蚊を搏ち損ねたる吾も哀れ (あきのかをうちそこねたるわれもあわれ) ○哀れ蚊の耳の後ろに来て鳴けり 秋甫 ○残り蚊や墜ちたか無事か風強し 々 ○なごりの蚊三面鏡をとび立てり 々

花野

○花野来て画架置かれあるモネの庭 (はなのきてがかおかれあるモネのにわ) ○一人とはこんなに寂し大花野 秋甫 ○花野径子は手をほどき走り行く 々 ○大花野風きて雨に夢覚めし 々

葡萄

○黒葡萄レンブラントの衣の彩 (くろぶどうレンブラントのきぬのいろ) ○山ぶどう手を出して鳥に鳴かるる 秋甫 ○帽子被る案山子置きたる葡萄棚 々 ○マスカット三粒づつなる皿並べ 々

二学期

○二学期の子の大人びて登校す (にがっきのこのおとなびてとうこうす) ○休暇明け登校の荷を前後ろ 秋甫 ○休暇果つ絵日記の彩まとめ塗る 々 ○遅咲きに追肥施す秋学期 々

夜長

○長き夜の繰り返されるユモレスク (ながきよのくりかえされるユモレスク) ○長き夜の灯を早ばやと消しにけり 秋甫 ○深夜ラジオのアナウンサーと夜長し 々 ○夜長とは灯を消してよりはじまりぬ 々

無花果

○無花果の肉に溺れる黄金虫 (いちじくのにくにおぼれるこがねむし) ○無花果や悔い改めのカンタータ― 秋甫 ○ポンペイに無花果乾き売られけり 々 ○無花果に大泉門の開いてをり 々

八月尽

○電子脳「京」を「富岳」へ八月尽 (でんしのうきょうをふがくへはちがつじん) ○子別れの鴉の朝に八月尽 秋甫 ○八月尽宿題の子の夜の悪夢 々 ○新聞を一括りする八月尽 々

苔桃

○苔桃の森の奥にはトロルの村 (こけもものもりのおくにはトロルのむら) ○苔桃や熱唱のフィンランディア 秋甫 ○トロル来て苔桃の篭持って行く 々 ○苔桃を栗鼠が隠して赤い実に 々

鉦叩

○今年また門を叩くや鉦叩 (ことしまたかどをたたくやかねたたき) ○鉦叩今宵はお布施出ぬそうな 秋甫 ○鉦叩魑魅魍魎を地の底へ 々 ○潮騒や破れ苫屋の鉦叩 々

秋の潮

○舟留めの苔食うチヌや秋の潮 (ふなどめのこけくうチヌやあきのしお) ○イヤホンに別れの曲や秋の潮 秋甫 ○水底は怨霊ねむる秋の潮 々 ○秋潮へ最終便の汽笛鳴る 々

秋雨

○アンテナに鴉の憂う秋の雨 (アンテナにからすうれいるあきのあめ) ○秋雨や縁の下より忍び音の 秋甫 ○秋雨やじゃが芋の芽が闇に出る 々 ○秋雨に今さら蝶の急ぎ飛ぶ 々

鉄道草

○鉄道草線路は母のいる町へ (てつどうぐさせんろはははのいるまちへ) ○鉄道の文明開化明治草 秋甫 ○D51やヒメムカシヨモギ顔を搏つ 々 ○鉄道草匂う線路脇の家 々

新涼

○新涼やきざみ茗荷の香をのせて (しんりょうやきざみみょうがのかをのせて) ○京の娘に新涼を聞く長電話 秋甫 ○新涼や稿の初めの箇条書き 々 ○絵てがみに新涼の彩うす緑 々

蕎麦の花

○蕎麦の花粉ひき唄など祖谷の里 (そばのはなこひきうたなどいやのさと) ○蕎麦咲けば死んだ娘が行くかずら橋 秋甫 ○かずら橋渡れば秘境蕎麦の花 々 ○奥祖谷の案山子の里や蕎麦の花 々

蟋蟀

○雨の音蟋蟀の音と替わり合う (あめのおとこおろぎのねとかわりあう) ○脱衣場に固まってゐるいとどかな 秋甫 ○竈馬五右衛門風呂の蓋の上 々 ○二十燭光燈りいとどと貰い風呂 々