◦寒月の寂光たまふ細石 （かんげつのじゃっこうたまふさざれいし）

◦大寒や便器より見る手話の絵図 （だいかんやべんきよりみるしゅわのえず）

◦臘梅の蝋引くごとき花ながし （ろうばいのろうひくごときはなながし）

◦水底の海鼠の意気をこりと噛む （みなそこのなまこのいきをこりとかむ）

◦寒の水計量カップにて飲みぬ （かんのみずけいりょうカップにてのみぬ）

◦ストックに冬将軍を歩かせる （ストックにふゆしょうぐんをあるかせる）

◦雪男みた話など雪見酒 （ゆきおとこみたはなしなどゆきみざけ）

◦山颪ひと夜起こして今朝の雪 （やまおろしひとよおこしてけさのゆき）

◦どの部屋も窓曇らせて寒の内 （どのへやもまどくもらせてかんのうち）

◦大寒を打てばコキンと音がする （だいかんをうてばコキンとおとがする）

◦墓守の一人となりて冬蕨 （はかもりのひとりとなりてふゆわらび）

◦寒垢離の鉢ささげゆく素足かな （かんごりのはちささげゆくすあしかな）

◦冬帝の始発の中や受験生 （とうていのしはつのなかやじゅけんせい）

◦水口に鯉口よせて日脚伸ぶ （みなくちにこいくちよせてひあしのぶ）

◦残照の冬木に鴉そめられず （ざんしょうのふゆきにからすそめられず）

◦水仙の暮れ残しゆく庭の隅 （すいせんのくれのこしゆくにわのすみ）

◦お鏡の底から小餅四つ出て （おかがみのそこからこもちよっつでて）

◦部屋中に小豆匂ひて小正月 （へやなかにあずきにおいてこしょうがつ）

◦冬耕のひと日鴉に好かれおり （とうこうのひとひからすにすかれおり）

◦三味引きの熱海に降りる淑気かな （しゃみひきのあたみにおりるしゅくきかな）

◦どんど火の一番高きのの字かな （どんどびのいちばんたかきののじかな）

◦龍の絵の剥がされし日や松納め （たつのえのはがされしひやまつおさめ）

◦糸引けば大利根の空勇み凧 （いとひけばおおとねのそらいさみだこ）

◦松過ぎて常の魚の目になりぬ （まつすぎてつねのさかなのめになりぬ）

◦人日や草食むものの穏やかし （じんじつやくさはむもののおだやかし）

◦年玉の袋数えて六日かな （としだまのふくろかぞえてむいかかな）

◦事始め孫のドリルに熱くなり （ことはじめまごのドリルにあつくなり）

◦書初めの「みねの雪」ちょう白からず （かきぞめのみねのゆきちょうしろからず）

◦寅さんの口上よろし三日かな （とらさんのこうじょうよろしみっかかな）

◦屠蘇めしてふくら雀の踊りかな （とそめしてふくらすずめのおどりかな）