花衣

〇花衣犬にも着せて蛸薬師 (はなごろもいぬにもきせてたこやくし) 〇脛出して外国人の花衣 河童三子 〇チャリチャリと雪駄鳴らすや花衣 々 〇六角堂胸にクルスの花衣 々

春雷

〇春雷や冬眠の亀首伸ばす (しゅんらいやとうみんのかめくびのばす) 〇大門に人走り入る春の雷 河童三子 〇春雷や鳩飛び立たす六角堂 々 〇春雷や新京極の蛸薬師 々

春祭

〇村人の義農称へる春祭り (むらびとのぎのうたたえるはるまつり) 〇花まつり稚児しずしずと狐貌 河童三子 〇弟の稚児たのもしき春まつり 々 〇十俵の餅に酔いけり春まつり 々

桜咲く

〇修学院夏の離宮の桜咲く (しゅうがくいんなつのりきゅうのさくらさく) 〇山科を京へ桜の上り来る 河童三子 〇ひとり来て鞍馬の里の桜かな 々 〇太秦の桜の記憶また一つ 々

九春

〇揺れながら九春の真中過ぎけり (ゆれながらきゅうしゅんのまなかすぎけり) 〇九春ややうやう嬰の首すわる 河童三子 〇九春の或る日変身する蛹 々 〇九春や餌の匂いに亀の夢 々

雁帰る

〇冠雪に別れを告げる春の雁 (かんせつにわかれをつげるはるのかり) 〇月残るさざ波の上雁帰る 河童三子 〇雁帰るひたすらNの極さして 々 〇ブーメランの形つくって雁帰る 々

竜天に昇る

〇鑑真の渡りし四海竜天に (がんじんのわたりししかいりゅうてんに) 〇竜天に昇りて山は真っ白に 河童三子 〇竜天に立ち合いたくて池のへり 々 〇たった今竜が昇りし跡を見る 々

春疾風

〇表の物転がる音や春疾風 (おもてのものころがるおとやはるしっぷう) 〇若者の胸の虚構や春疾風 河童三子 〇魁夷の海巌波白き春疾風 々 〇春疾風タクラマカンの砂漠より 々

囀り

〇囀りに耳傾ける道祖神 (さえずりにみみかたむけるどうそじん) 〇囀りの聞こえる方の山仰ぐ 河童三子 〇ふるさとの訛りを入れて囀るや 々 〇囀りや近づく程に旨くなり 々

日脚伸ぶ

〇日脚伸ぶ歯医者の椅子に仰向きて (ひあしのぶはいしゃのいすにあおむきて) 〇窓の外の淡き茜や日脚伸ぶ 河童三子 〇日脚伸ぶ己の寿命ともに延ぶ 々 〇日脚伸ぶ旅行鞄の荷出し入れ 々

芋植う

〇伊予美人てふ芋植るる霄のもと (いよびじんてふいもうるるそらのもと) 〇先生の一家そう出に芋植るる 河童三子 〇ひつじ田を鋤いて今年は芋植るる 々 〇待ちかねて芽を出している芋植るる 々

薺花

〇薺花下の姉から爪弾き (なずなばなしたのあねからつまはじき) 〇ぺんぺんと撥搏ちたがる薺花 河童三子 〇娘はすぐに女となりぬ薺花 々 〇三味線草雀おどらす日中かな 々

白木蓮

〇はくれんの気迫まっすぐ白通す (はくれんのきはくまっすぐしろとおす) 〇初陣の鉢巻き白し白木蓮 河童三子 〇白木蓮みな上向いて汚れ無し 々 〇世の中の判官贔屓(はんがんびいき)白木蓮 々

春しぐれ

〇乳取りし胸のくぼみや春しぐれ (ちちとりしむねのくぼみやはるしぐれ) 〇春しぐれ子は傘置いて走り出る 河童三子 〇人形のフランス窓や春しぐれ 々 〇春しぐれ湖水地方のSLに 々

〇雉の目の金環色に菜の花や (きじのめのきんかんしょくになのはなや) 〇雉の頬真紅に出でて急ぎ去る 河童三子 〇ヒマラヤを臨む夕刻きぎす鳴く 々 〇雉鳴くやヒマラヤ深く亡命す 々

水温む

〇絵の中の跳ね橋の下水温む (えのなかのはねばしのしたみずぬるむ) 〇鯰でて髭の自慢や水温む 河童三子 〇ぴちゃぴちゃと飲む猫舌に水温む 々 〇水温む一人芝居の浮世かな 々

三月十一日

〇三階の船体三月十一日 (さんがいのせんたいさんがつじゅういちにち) 〇三月十一日夜は雨降るらし 河童三子 〇揺れるたび三月十一日の記憶 々 〇三月十一日まためざし焼く 々

鳥雲に

〇逢へばまた共に白髪や鳥雲に (あえばまたともにしらがやとりくもに) 家の窓より春曙(朝6時半撮影) 〇恋の詩ひとつとてなし鳥雲に 河童三子 〇鳥雲に番ひて残る山の池 々 〇雲に鳥夜も眠れぬ人の親 々

春曙

〇春曙吾を茜に包みけり (はるあけぼのわれをあかねにつつみけり) 〇塵捨てに行くも豪華や春曙 河童三子 〇胎内の記憶のごとき春曙(しゅんしょ)かな 々 〇春曙送られて出る小船かな 々

涅槃

〇お涅槃や地獄絵を見に急降下 (おねはんやじごくえをみにきゅうこうか) 〇お涅槃の僧のパリ・コレ廻廊練る 河童三子 〇涅槃会や修行の僧の旅装解く 々 〇涅槃会や宇宙の塵を拾ひをり 々

雪柳

〇斑雪庭に斑の小米花 (まだらゆきにわにまだらのこごめばな) 〇祖母の背に負われて温し雪柳 河童三子 〇雪柳朝(あした)に白し塀の内 々 〇小米花登校の子のちらちらと 々

土筆

〇袴着てにぎにぎしくも土筆の列 (はかまきてにぎにぎしくもとくしのれつ) 〇青々と頭剃りたる土筆かな 河童三子 〇手作りの句集あがりしつくづくし 々 〇めいめいに首傾げたる土筆かな 々

啓蟄

〇啓蟄や色香まっすぐ目覚めける (けいちつやいろかまっすぐめざめける) 〇啓蟄や鉦や太鼓をかり出さん 河童三子 〇啓蟄や土竜敲(もぐらたたき)を外すかな 々 〇啓蟄や曇りのち雨となりけり 々

引鴨

〇引鴨ややがて大河の上となる (ひきがもややがてたいがのうえとなる) 〇引鴨へ浚渫船の首を振る 河童三子 〇引鴨や兄妹の無事確かめぬ 々 〇引鴨の遅れて一羽飛び立ちぬ 々

春霙

〇チップ船沖合に待つ春霙 (チップせんおきあいにまつはるみぞれ) 〇釣り糸に兄弟の距離春霙 河童三子 〇コンビニにツーリングの子春霙 々 〇春霙蛇口緩みて流れけり 々

目貼り剥ぐ

〇蜑の家の海見る小窓目貼り剥ぐ (あまのやのうみみるこまどめばりはぐ) 〇目貼り剥ぐ術後のテープ剥ぐごとく 河童三子 〇南北の目貼り剥ぐれば部屋一つ 々 〇目貼り剥ぐ隣家の人の会釈かな 々

石蓴

〇石蓴掻く屈まる母に潮遠く (あおさかくかがまるははにしおとおく) 〇椀に顔ふせて石蓴の香にむせぶ 河童三子 〇磯料理締めはいつもの石蓴汁 々 〇汁の実の葱採るごとく石蓴掻く 々

二月尽

〇南天に実の二つ三つ二月尽 (なんてんにみのふたつみっつにがつじん) 〇三度目の遺言書いて二月尽 河童三子 〇うるうとて寒さいとひく二月盡 々 〇大學の休学届二月尽 々

クロッカス

〇クロッカスの空広々と深々と (クロッカスのそらひろびろとふかぶかと) 〇クロッカス三女は姉に憧れて 河童三子 〇クロッカスフィンランドの妖精と 々 〇いぬねこにのぞかれているクロッカス 々

鶯笛

〇鶯笛思い出はよき音色して (うぐいすぶえおもいではよきねいろして) 〇一人吹く鶯笛に何思ふ 河童三子 〇子ら寄せて鶯笛を作りけり 々 〇鶯笛はるかな目して吹く男 々