○色も香も種になり初む秋深し
(いろもかもしゅになりはじむあきふかし)
老いるという事
下の畑の老人が杖をついて大根の芽の出具合を見に来ていた。はじめに種を播いた後台風がきて大雨に芽は流されてしまったのである。次に播いたのが漸く大根の葉と見分けがつくほどに成長している。杖に寄りかかり腰をくの字にして畑の様子を窺っている姿には彼の往年の個性は薄く唯一介の老人であった。その姿に晩年の身内の姿を思い重ねても違和感がないのである。
現在最高齢で存命中の117歳の女性は性すら超越されているように見受けられるのである、個は淘汰されて種に凝縮されていくのだろうか。