今年酒

            〇乾杯は目で頷いて今年酒

              (かんぱいはめでうなずいてことしざけ)

           

             〇まず呑めることに喜び今年酒   河童三子

             〇父方の血脈にゐて今年酒     々

             〇辛口を豪語して呑む今年酒    々

 


     婆ごころ

 

  一日静かに雨は降っていました 霧雨の時もありました

 それでも夜になってから 重い音がして雨ははげしくなりました

 銀杏はもう落ち始める頃だろうか ブルばあちゃんは ぼんやり

 お観音さんの 広場の大きな銀杏の木を 思っていました

 雨の翌日には いっぱいの 銀杏の実を 落としていたのです

 それから昔読んだ北原白秋の 「銀杏」の詩を思い出しました。

 

   銀杏      北原白秋

  銀杏は緑いろの実だ、

  白い眼の形した殻、

  あの稜(かど)をたたくと━

  わたしは思ひ出す、小さな木の槌と台砧(だいしき)とを

  お河童髪(おかっぱ)さんの昔を。

 

  銀杏は緑いろの実だ、

  火に寄せると金いろの輝きをして

  苦いほど焦げる。━

  もひとつ作らう、小さな木の槌と台砧(だいしき)とを、 

  また、秋風の夜を座らう。

 

  銀杏は緑いろの実だ。

  ひとつひとつ叩いて、

  さあ、ひとつひとつ焼かうよ、

  わたしは作った、小さな木の槌と台砧(だおしき)とを、

  おお、我が子よ、座らう。

 

 銀杏は緑いろの実だ。

  あの白い殻をたたくと。━

          (岩波書店 白秋全集4 詩集4『水墨集』60ページより)