治聾酒

     ◦治聾酒を酌み交わしたる故人かな


(じろうしゅをくみかわしたるこじんかな)

 雨の音もなく春霖というのでしょうか、窓の外は潤んでいました。漸く開ける視野に古いお墓が並んで見えています。右へ少し傾いているもの、歯抜けのようになったもの、こちらから見るとそれは老人の乱杭歯を想像させました。
 概ね春のお彼岸にお酒を呑むと聾(つんぼ)が治るといって、治聾酒というそうですが、なぜか私の周辺には過去にも現在においてもお酒を好む人が多く、そこのお墓の住人もこんな日は、お酒を酌み交わしながら大きな声で語り合っているのような気がしました。

     ◦治聾酒の宴たけなわに雨の墓