◦鉄床に銀杏割れば翡翠の実
(かなとこにぎんなんわればひすいのみ)
炒り銀杏
子供の頃、どこかのお寺かお宮のおまつりに父と行った。どんなふうにしてどんな経緯があってその場に自分が居たのかは全く記憶はないが、焼いた銀杏の袋を私に手渡したのは父であった。父と二人きりだった。まるで切り絵の情景を見るようにその場面を記憶しているのである。
銀杏の実を見たのも、焼いたそれを味わったのもそれが初めててあった。堅い豆を食べるのは田舎の暮らしでお手の物だったから、父の食べるのを見て、同じように殻を口の中で割って、実を出した。美しい翠色であった。けれど、味の方は臭くて苦くて、、、。父については妙にあの時の銀杏を思い浮かべる。