玉蜀黍

     ○B29唐黍の上飛んだ日よ
(B29とうきびのうえとんだひよ)

       ○大島の異人の焼くはもろこし麺麭    秋甫
       ○唐黍のよき粒見せて売らるるや    々
       ○とうきび備長炭で焼く夜店     々
 滋賀に疎開していた頃、といっても1943年生まれの私は自分自身の記憶としての戦争はインプットされていないのだが、家族や周辺の人から聞いた話を自己体験のように記憶していたのかもしれない。
 私は山の畑で玉蜀黍のひんやりする毛を投げ出した膝に並べて遊んでいた時、近くで作業していた祖母が突然転がり込んで来て、すぐ近くの大きな柿の木の下に抱きかかえて隠れるようにして入れたのである。祖母は「B29、B29」と叫んでいた。その「B29」と叫んだ祖母の声と寸前まで遊んでいた玉蜀黍のひんやりとした毛の感触は一対になって今も記憶の底に仕舞われているのである。
 隣町に大島という小さな島がある。数年前スイス人が移り住んでパンを焼いて売ったり、島内にちょっとした牧場を作ってヤギなどを飼っている。牧場の柵の内側へ害獣よけにまた柵をこしらえてトウモロコシを植えていたが、その玉蜀黍からスイス人の髪の色に似た髭が盛んに生え出していた。