蚊遣火

     ○転寝に蚊遣火遠く置かれけり
(うたたねにかやりびとおくおかれけり)
追憶の日
       ○追憶の蚊遣燻る菊の香に    秋甫
       ○雲水の腰の蚊遣火庫裏仕事   々
       ○除虫菊庭燻れる蚊遣の火    々
 昔、夏の夕暮れには庭へ除虫菊などの草を刈ってきて、それを燻らせる煙があちこちに上がっていたものだ。あの一ときは煙たくてどこにも落ち着く先がなく嫌いだった。けれども寝に就く頃には再び虫たちに取り巻かれていて蚊帳を張って寝たものだった。蚊帳はすきだった。開け放たれた雨戸の外からときどき風が舞い込んで来たし、青い蚊帳を草むらと間違って虫も飛んできた。