蓑虫

          〇蓑虫や引き籠る子の揺れてをり

            (みのむしやひきこもるこのゆれてをり)

         

          〇蓑虫のハンドメイドの服を着て     河童三子

          〇蓑虫の雨降る夜は父(チチ)と鳴く   々

          〇蓑虫の見上ぐる空の十六夜       々

     婆ごころ

 

  ブルばあちゃんは  午前中のほとんど 机に頬づえついて 詩を読んでいました

 雨は静かに 朝から降っていました。

 

       太陽はいま蜀黍畑にはいつたところだ   山村暮鳥

    一日の終りのその束の間をいろどつてゆつたりと

    太陽はいま蜀黍畑にはいつたところだ

    大きなうねりを打つて

    いくへにもかさなりあつた丘の畑と畑とのかなたに

    赤赤しい夕焼け空

    枯草を山のやうに積んだ荷馬車がかたことと

    その下をいくつもつづいてとほつた

    何といふやすらかさだ

    此の大きいやすらかな世界に生きながら人間は苦しんでゐる

    そして銘々にくるしんでゐる

    それがうつくしいのだ

    此のうつくしさだ

    どこか深いところで啼いてゐるこほろぎ

    自分を遠いとほいむかしの方へひつぱつてゆくその聲

    けれど過ぎさつた日がどうなるものか

    何もかも明日のことだ

    何もかも明日のことだ