烏瓜

     ○烏瓜弟の嘘淋しけり
(からすうりおとうとのうそさびしけり)
郷愁
 鵯のピーヨピーヨという声をキーッ、キーッと鵙が遮る。一日中そんな鳥たちの営みを聞いていると、昔々の秋の日が思い出される。
 弟と私は十歳はなれた姉弟である、弟の幼い頃はほとんど私が子守をしていた。三尺帯で弟を背中に括り付けて家の前の道路でドッチボールをしたこともあった、背中の赤ん坊のことなど構ってみることもなく、あいた手と足はボールから逃げたり掴んだら急いで投げたりすることに何のはばかるところもなかった。で、赤んぼの弟の頭は背中で十分に振られていたに違いない。またミルクを買いに行った私はコンデンスミルクの缶詰を買ってきた。それはとろんとしてとても美味であったから少なからず私の口にも流し込んだ記憶がある。あの頃はまだ赤ちゃん用のドライミルクなんて店頭にあったのかどうか、たいていは重湯かお粥さんが主食だったから、練乳をピンハネしても弟の成長に影響はなかったと思うけど、これらもろもろの生い立ちが要因になって、彼の頭は良くならなかったのだろうか。
 何より母が早く亡くなったことは大きな痛手だったに違いない。彼はまだ中学生だったが、すでに家を出ていた私は、その後彼が結婚するまでその生活の全てを知らずに過ごしていたのである。彼の嘘の全てに私は責任の一端を感じる。