明易し

     ○不眠とて朝の電話や明易し
(ふみんとてあさのでんわやあけやすし)
「セカンドハンドの時代」
 ネットで注文していた本が届きました。活字も小さく、なによりもその分厚さに圧倒されています。作者は2015年にノーベル文学賞を貰ったウクライナ生まれのロシア人で、スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ著「セカンドハンドの時代」
 私は落ち着いた気持ちで静かに読み出しました。もう以前のように何もかも打ちっやらかして、最優先に夢中になることはなく、意識してそれに対して冷淡に振る舞うようにしています。

 朝から電話があったのは、「眠れないから薬が欲しいといって私の枕元に立って、夫はくれなかったら暴れるかもしれないと言うの、決められた分以上に飲むのよ」困惑し切った従妹の声でした。
 彼女の夫には、人間の崩壊がはじまっているのでしょう。崩壊は人に様々な方向から襲ってきます。徐々に世間と無関心になり、やがて全く関心がなくなり、食べる事も排泄することも自分の意志から離れて営まれるのです。

 少なくとも私は、眠れないから薬を飲むなんてことはしないで、せめて重い本がいつも胸の上に乗っかっているといった状態に留めたいものです。