○落梅のチフスに罹ると祖母が教え
(おちうめのチフスになるとそぼがおしえ)
落ちた梅の実
 母の実家は山の中腹にあって、その登り口の土手には梅の木がありました。落ちている実を見ると、美しい黄色だったり、ほんのり赤身を帯びていたり、おやつなどなかった時代にそれはとても魅力的な食べ物に写ったものでした。
 そんな様子を知った上で、祖母は「落ちた梅をそのまま食べるとチフスになる」と言って脅かしました。隣家の竹ちゃんが亡くなった年だったろうか、歳は私くらいだったと思うけど、浴衣を着て寝かされていたのを覚えています。あの頃は子供がよく亡くなりました。コレラ発疹チフスなどと言った伝染病が往行していたのです。大人になってから知ったことですが、竹ちゃんは麻疹(はしか)で亡くなったそうです。
 私と言えば、祖母からきつく言い渡される前に、落ち梅はすでに実験済みでした。見た目はどんなに美しい黄色でも、顔が歪むほど酢っぱかったのです。