老鶯

     〇老鶯のケキョケキョケキョを聞いてをり
(ろうおうのけきょけきょけきょをきいてをり)
谷わたり
 この頃、朝一番に山の方から「ケキョケヨケキョ」という鳥の声がします。それが老鶯などと名前をつけられた鶯だってことは、時に忘れたかのように、ホーと付け加えて鳴くからでしょうか。
ホーホケキョとは違って、快い涼しさが感じられてあぁー夏だなと実感します。
 じっと耳を澄まして聞いても、ホーがなくケキョケキョばかりで、初めは鶯と違う鳥かと思っていましたが、春に里でホーホケキョと鳴いていた鶯は、夏が来ると山に入って相手を見つけて巣作りを始めるのだそうです。
 相手を求める声が「ケキョケキョケキョ」と言って木々や谷を飛びながら鳴くので、それを「鶯の谷渡り」ともいうのです。
 巣作りを始める鳥がもう老鶯なんて呼ばれているのでは、ちょっと気の毒な気もしますが。老という文字を見るだけで、なんだか身につまされます。