浅蜊

     ◦満月を廚に恨む浅蜊かな
(まんげつをくりやにうらむあさりかな)

 夜中に目が覚めました。窓の外は煌煌とした満月で、その明るさに起こされた
のでしょう。明日の俳句はこの「春の月」にしようかな、とりあえず起き上がって階下に降り立ちました。
 月の光は四季折々に物語を語ってくれますが、特に春の月は妖しげな幻想を語りかけるのです。
 デジカメを空に向けてパチり、設定も感度の調整も一切無視しての実行です。幻想を追求するにはもう少し精緻な技巧が必要だったでしょう。カメラを空に向けた途端、幻想はどこかへ消えてしまったのです。
 あっさり無駄な抵抗は止めて、家の中に入ると、台所に夕方知人から届いた浅蜊が、ボールの中でブツブツ言っているのを見ました。浅蜊たちは大潮さえなかったら、獲られることもなかったのにと、廚の外の満月を恨んでいたのかもしれません。
 と言うことで、「春の月」は「浅蜊」に早変わりしてしまいました。