虫時雨

             〇闇に在る底の起伏や虫時雨

               (やみにあるそこのきふくやむししぐれ)

             

            〇虫時雨ほぼ百年の闇夜かな      河童三子

            〇オペラあり艶歌のありし虫時雨    々

            〇深夜ラジオ消し虫時雨聞いて眠る   々

 

新涼

            〇新涼や祖谷の吊り橋猿揺らす

             (しんりょうやいやのつりはしさるゆらす)

             

             〇新涼や猿に競ひて栗拾う     河童三子

             〇新涼や尊徳像のなき校庭     々

             〇新涼ノ四角イ闇ヲ覗キ見ル    々

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉦叩

            〇鉦叩五百羅漢の膝の上

             (かねたたきごひゃくらかんのひざのうえ)

              

             〇一つ灯を消して始まる鉦叩   河童三子

             〇真夜に聞く便所の裏の鉦叩   々

             〇鉦叩吾にこの世の供養にと   々

 

水澄む

            〇水澄むや掌に汲む弘法水

             (みずすむやてのひらにくむこうぼうすい)

              

             〇貴船山水占いの水澄める    河童三子

             〇さざ波を月の走りて水澄めり  々

             〇海もまた水澄むところ鴎浮く  々

  

菊の日

           〇重陽や冬瓜を煮て菊のせる

            (ちょうようやとうがんをにてきくのせる)

            

            〇重陽に虹も架かりて女王逝く   河童三子

            〇菊の日や刺身に菊をならべけり  々

            〇重陽や四五年はまだ生きんと思ふ 々

            

 

秋の蚊

          〇秋の蚊を子供が連れて戻りけり

             (あきのかをこどもがつれてもどりけり)

             

            〇残る蚊の一匹赤い血の透けて   河童三子

            〇秋の蚊の朝帰る戸を開けてやる  々

            〇残る蚊に囁かれをる耳かゆし   々

 

 

花野

          〇テントに夢覚めて朝の花野行く

             (テントにゆめさめてあしたのはなのゆく)

             

            〇朝露に濡れて来る人のゐる花野   河童三子

            〇寂しさに花野の朝の濡れてゐし   々

            〇花野行く朝はこんなに寂しからむ  々