風鈴

           〇風鈴や海の向こうに広島市

             (ふうりんやうみのむこうにひろしまし)

              

               〇風鈴の風犬小屋の上に来る   河童三子

            〇風鈴の風に座敷を開けをくや  々

            〇風鈴や外行く人の絶えてなし  々

 

大江健三郎

  核爆弾と人工衛星とが撒きちらす

  放射能の灰とラジオ光線の毒とに

  ありとある市 ありとある村

  人間 家畜 栽培物が浸蝕される時

  森におこっているのは驚くべき

  生命の更新である。森の力は強まり

   ありとある市 ありとある村の

  衰弱は 逆に 森の回復である。

  放射能の灰とラジオ光線の毒こそは

  樹木の葉と地面の草と湿地の苔に

  吸収されて「力」になるからだ。

  樹木の草と葉が炭酸ガスに殺されず

  酸素を生むことを見よ

  核時代を生き延びようとする者は

  森の力に自己同一化すべく ありとある市

  ありとある村を逃れて 森に隠遁せよ!

                (第一章 静かな悲嘆より)

 

 1987年に第一刷発行となっている

「懐かしい年への手紙」の本を手にした時から

「洪水はわが魂に及び」大江健三郎の世界に私は再び呑みこまれてしまった

1987年には娘は16歳になっていた

娘の誕生以来それまでの年月は私の全身を子育てへ埋没させていたのだ。