陽炎

           ○坂の上バス陽炎ひて現れる

             (さかのうえバスかげろひてあらわれる)

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             ○手を振ればやがて陽炎ふ電車かな  秋甫

             ○君乗せて陽炎ふ中へ電車行く    々

             ○物陽炎へる刻吾もまた陽炎ふ    々

 結婚してこの地に縁ができた当初は、JRの駅まで国道のバスを利用していた。配偶者の故郷なんていうものは妻にとって早く逃げ出したい場所にほかはなかったのである。町の境界を流れる川の土手は高く、その橋を渡って現れるバスがいつも待ちどうしかったのを覚えている。

 時間が経った今は、見送る立場に逆転してしまった。陽炎の中に現れる物は複雑に変化してしまったのだ。