○柳鮠ひかり放ちて遡る
(やなぎはやひかりはなちてさかのぼる)
○柳鮠美観地区なる橋の上 秋甫
○汽車のすす濯げば寄り来柳鮠 々
○石仏の影いただきて柳鮠 々
柳鮠では思い出す光景がいくつかあった。
子供の頃、小川はいたる所に流れていて、それほど段差のない水際はどこにもあった。
母の実家は、滋賀県の大原市場という駅で汽車を下りるのだが、当時はまだ蒸気機関車SLが全国を走り回っていた時代で、窓など開けて首をだしたりしていると、たちまち顔は煤で真っ黒になったものだ。駅から実家までの小一時間ほどの道のりを歩く間、母はそんな流れにハンカチを浸して必ず私の顔を拭ってくれたものだ。鮠は手の届くほどの近さを悠々と泳いでいったのが今も目に浮かぶ。
美観地区の鮠は岡山の光景。石仏の影いただく鮠は九州臼杵の石仏をイメージした。何年か前に臼杵の石仏を訪れた時、開けた田畑の間の小川をやはり長閑に泳いでいたのである。