盆の月

     ○枕辺に十六日の盆の月
(まくらべにじゅうろくにちのぼんのつき)

       ○墓閉じし里の暮しに盆の月     秋甫
       ○盆の月縁薄しと思ひしや      々
       ○阿波の山越し来て見える盆の月   々
        
     夕   原民喜
 わたしはあそこの空に見とれてゐる。今の今、簷近くの空が不思議と美しい。
 一日中濁った空であったのが、ふと夕ぐれのほんの一ところ、かすかな光を
 おび、淡い青につつまれてゐる。痛み呆けたはての空であろうか。幻の道の
 ゆくてであろうか。あやしくもかなしい心をそそるのである。