冬の雷

     ○冬の雷珈琲館のビバルディ
(ふゆのらいこーひーかんのビバルディ)
茶房フランソア
 京都での一日、珈琲館フランソアの席は背後に東郷青児らしい絵があった。15の少年は「これはカ、カ?」「カノン」と母親が答えてやっていた。最近少年は音楽にも関心があるようで、部屋に電子ピアノなど置いてときどき我流で叩いているといった状況なのだ。やがて曲はビバルディの四季に変わっていた。
 またこの音楽少年は今年のノーベル文学賞カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を読んだそうだ。で、私も丸善の地階へ降り立ったすぐのスペースに大量に積み上げられてあったのを一冊買った。とりあえず最後まで読んだが、途中で放りだせない衝動に駆られたことも事実である。
 臓器提供のために誕生させられたクローン人間。施設で人として教育され、やがてその使命のためにそれぞれが散っていく。現実に1990年代、羊のドリーが成功してそれは人間にも応用されかけて禁止になったテーマであるが、この作品では化学の進歩の一助としてクローン人間が承認された。しかし彼らは人間社会から隔離されながらあくまでもひっそりと、指提供者として生存させられていた。
 むろんこの作品にノーベル賞が与えられた訳ではなかったろう、一冊だけ読んだだけである。