鈍行俳句

冬の海

○冬の海終の棲家をここにして (ふゆのうみついのすみかをここにして) ○この冬の海見て五十年過りぬ 秋甫 ○どれほどの荒波もなく冬の海 々 ○父母ほどに叱りをるかな冬の浪 々

枇杷の花

○枇杷の花雨の重みを抱えをり (びわのはなあめのおもみをかかえおり) ○雨の日は雨に向いてる枇杷の花 秋甫 ○枇杷の花実沢山にもなる兆し 々 ○枇杷の花家は途絶えて無かりけり 々

冬苺

○冬苺孤高におごる真紅かな (ふゆいちごここうにおごるしんくかな) ○冬苺ショートケーキの四半分 秋甫 ○冬苺フォレストハウス庭の道 々 ○山裾は葉隠れ勝ちに冬苺 々

冬の雨

○万有の引力を見る冬の雨 (ばんゆうのいんりょくをみるふゆのあめ) ○冬の雨画材の重き鞄提ぐ 秋甫 ○アトリエの画布弛みだす冬の雨 々 ○凧の絵の湿りだすかな冬の雨 々

隙間風

○生き甲斐に目覚めてビルの隙間風 (いきがいにめざめてビルのすきまかぜ) ○隙間風身を寄せ合った昔かな 秋甫 ○隙間風反対意見でて無言 々 ○隙間風古着に継ぎを繰り返し 々

冬紅葉

○生きてゐる色の僅かに冬もみじ (いきているいろのわずかにふゆもみじ) ○温泉郷いく冬もみじ残りしや 秋甫 ○冬紅葉ムンクの叫び橋の上 々 ○冬もみじにも陽の当たる明るさよ 々

十二月

○花道でトンと見栄切る十二月 (はなみちでトンとみえきる12がつ) ○十二月廃墟の記憶始まりぬ 秋甫 ○葱の根をプランタに挿し十二月 々 ○軒先の照る日曇る日十二月 々

冬帽子

○毛糸帽部屋に被りし独りかな (けいとぼうへやにかぶりしひとりかな) ○昔々アナーキストの毛糸帽 秋甫 ○上野公園手垢のニット帽子かな 々 ○冬帽や「蟹工船」の男たち 々

山茶花

○山茶花に一気呵成の散華かな (さざんかにいっきかせいのさんげかな) ○山茶花の身も世もなしに散ってをり 秋甫 ○山茶花や昔長屋の井戸の根際 々 ○山茶花の咲いて散って賑やかし 々

暮早し

○殊の外昼餉の後の暮早し (ことのほかひるげのあとのくれはやし) ○暮早し昼餉の茶碗出でしまま 秋甫 ○惣菜の値の半額や暮早し 々 ○短日や朝餉昼餉に夕餉かな 々

石蕗の花

○今日もまた人待ってゐる石蕗の花 (きょうもまたひとまっているつわのはな) ○石蕗咲いてすこし明るい午後の雨 秋甫 ○石蕗の花曇天の端曳き寄せる 々 ○石蕗の花首切って葉を寄せにけり 々

小春日

○小春日の瀬戸はきらきら兎波 (こはるびのせとはきらきらうさぎなみ) ○外湯から瀬戸の小春を覗きをり 秋甫 ○小春日や中風は鍋を抱へをり 々 ○小春日や指で背押せばあの世かな 々

三の酉

○三の酉あって今年の火の用心 (さんのとりあってことしのひのようじん) ○猫の見る吉原越しに酉の市 秋甫 ○風吹けば火の戸締りを三の酉 々 ○売れ残る於福も売れて三の酉 々 今日11月25日は三の酉の日である。 酉の日が3回ある年は火事が多いという言い伝え…

葱刻む

○葱刻む窓に製紙の煙立つ (ねぎきざむまどにせいしのけむりたつ) ○停泊の真白き船や葱刻む 秋甫 ○葱ぬいて鈍色の瀬戸迫りくる 々 ○船の灯や夕餉の葱を刻みけり 々 急遽新居浜の居住へ応援に行くことになった。 今度はベランダのデッキの修理である。この前…

一葉忌

○一葉忌駅に火鉢の埋め火や (いちようきえきにひばちのうずめびや) ○一葉忌母の手職の糊をねる 秋甫 ○幾つかの母の思い出一葉忌 々 ○一葉忌母には何も教わらず 々

木の葉髪

○パソコンのキーの隙間に木の葉髪 (パソコンのキーのすきまにこのはがみ) ○強者も世に鞣されし木の葉髪 秋甫 ○汝と吾と紛うことなき木の葉髪 々 ○木の葉髪おかっぱの子は幾星霜 々

柊の花

○柊の花距離おいて暮しをり (ひいらぎのはなきょりおいてくらしをり) ○柊の花より棘の大きけり 秋甫 ○柊の花も棘だに吾になし 々 ○柊の棘に守られ花浄し 々

落ち葉

○絵にすれば虫食いもよき落ち葉かな (えにすればむしくいもよきおちばかな) ○落ち葉焚きキツネの気持ち乗りうつる 秋甫 ○楓落ち葉「葉っぱのフレディ」かもしれぬ 々 ○落ち葉踏んで瓦礫を歩く巨人のごと 々

冬の雨

○冬の雨旅行案内書など広げ (ふゆのあめりょこうあないしょなどひろげ) ○新聞のビニール袋冬の雨 秋甫 ○スーパーの安売り卵冬の雨 々 ○冬の雨緑茶を淹れて腰据える 々

冬の虹

○冬の虹瀬戸を架けんと伸ばしけり (ふゆのにじせとをかけんとのばしけり) ○アトリエの二階に見える冬の虹 秋甫 ○冬の虹北欧の旅計画す 々 ○ヒョドルに立ち上がりたる冬の虹 々

冬ぬくし

○漁師らの潮の匂いや冬ぬくし (りょうしらのしおのにおいやふゆぬくし) ○冬暖か港に糶の終わる頃 秋甫 ○糶済んで空のトロ箱冬ぬくし 々 ○冬ぬくし猫も糶見る魚市場 々

冬の虫

○踏石に緑色して冬の虫 (ふみいしにみどりいろしてふゆのむし) ○冬の蜂虚しき足の動きかな 秋甫 ○冬の蟻畳の角を曲がりけり 々 ○お前たち種を残したか冬の虫 々

冬めきぬ

○貼り替えて障子立てれば冬めきぬ (はりかえてしょうじたてればふゆめきぬ) ○冬めくやめっきり猫も現れぬ 秋甫 ○ふゆ兆す峠の道を隣町 々 ○午後の陽や露店の婆へ冬兆す 々

返り花

○返り花逢うて喋って別れけり (かえりばなおうてしゃべってわかれけり) ○泣きもせず笑いもできぬ帰り花 秋甫 ○帰り花高き声出す無人駅 々 ○咲けばまたそれで哀れや帰り花 々

大根

○蕪大根煮ても漬けても冬旨し (かぶらだいこんにてもつけてもふゆうまし) ○日の菜きて蜜柑を送る滋賀愛媛 秋甫 ○日の菜漬けて火の色しぼり出してをり 々 ○大根は太きをもって尊ばれ 々 京都のいとこから日の菜の塩漬けを送って来た。後は甘酢をつくってそ…

障子

○山鼻の家に障子の明るさよ (やまはなのいえにしょうじのあかるさよ) ○ながらへば吾を障子の傍らへ 秋甫 ○あの世へも障子を開けて庭つづき 々 ○冬の日の障子に案山子写りけり 々

冬の日

○冬の日や案山子のバス停山の端 (ふゆのひやかかしのバスていやまのはな) 徳島東祖谷名頃の案山子 ○案山子占む公民館の日向ぼこ 秋甫 ○奥祖谷の案山子の里の冬日かな 々 ○案山子らの語らう里の冬日和 々 旧友(職場の同僚)と十数年ぶりに再会。

○富有柿の尊氏に似る面構 (ふゆうがきのたかうじににるつらがまえ) ○柿並べいづれ球子の面構 秋甫 ○渋柿の小さく成りて種多き 々 ○次郎柿継子に辛き薄情け 々 柿の種類は昔は富有柿、次郎柿くらいしか知らなかったが、店にも色々な種類が並ぶようになって…

オリオン

○流星やオリオン座からまた一つ (りゅうせいやオリオンざからまたひとつ) ○オリオンに流星群の一夜かな 秋甫 ○オリオン座にて映画みて冬の夜 々 ○オリオンの腰のベルトに星三つ 々 オリオン座は冬の星座。 いつからだろう、一日一句が4句も作る構成になっ…

紅葉

○裏山の紅葉を追えば工事中 (うらやまのもみじをおえばこうじちゅう) ○裏やまを隣の街へ蔦も紅葉 秋甫 ○袈裟がけに谷を斬りたる蔦紅葉 々 ○余生の中の紅葉に迷う一日かな 々 腰痛の方は如何ですか?(Y・Iさんへ) 立冬も過ぎて冬に突入していますが、この…