○金柑に椋にぎにぎし如月来 （きんかんにむくにぎにぎしきさらぎく）

○蛇口より解き放たれて寒の水 （じゃぐちよりときはなたれてかんのみず）

○寒鴉雨の一日を修行の僧 （かんがらすあめのひとひをしゅぎょうのそう）

○今のもの皆寒つけて雀群る （いまのものみなかんつけてすずめむる）

○障子の影のトンと音する屋根の雪 （しょうじのかげのトンとおとするやねのゆき）

○寒月光ひらひら降りぬ夢の上 （かんげっこうひらひらふりぬゆめのうえ）

○実を二つ雪より見せて藪柑子 （みをふたつゆきよりみせてやぶこうじ）

○山の雪庭の雪見てひと日かな （やまのゆきにわのゆきみてひとひかな）

○梟の木にも雪積む今夜かな （ふくろうのきにもゆきつむこんやかな）

○綾取の川はいつしか山となり （あやとりのかわはいつしかやまとなり）

○あやとりをきれいに取って子へ渡す （あやとりをきれいにとってこへわたす）

○厳冬や犬小走りに石畳 （げんとうやいぬこばしりにいしだたみ）

○白鳥に見まがふ濤や瀬戸の冬 （白鳥にみまがうなみやせとのふゆ）

○初場所の大銀杏解き風邪休み （はつばしょのおおいちょうときかぜやすみ）

○寒平目砂に埋もるる夢捨てず （かんひらめすなにうもるるゆめすてず）

○冬海の瀬戸に暮るるや一つの生 （ふゆうみのせとにくるるやひとつのせい）

○良寛の風瓢々と小正月 （りょうかんのかぜひょうひょうとこしょうがつ）

○冬麗のよろこび入りぬ障子かな （とうれいのよろこびいりぬしょうじかな）

○地の塩の塩にかたまる寒の内 （ちのしおのしおにかたまるかんのうち）

○べったらに一本赤き鬼の爪 （べったらにいっぽんあかきおにのつめ）

○日向ぼこ老女の嘘を聞いており （ひなたぼころうじょのうそをきいており）

○寒風や老いゆくことの狂をしき （かんぷうやおいゆくことのくるおしき）

○松とれて神の迷ひぬ松の先 （まつとれてかみのまよいしまつのさき）

○寒入りて漬菜の石のしづもりぬ （かんいりてつけなのいしのしづもりぬ）

○この頃は心も病めり薺粥 （このころはこころもやめりなずなかゆ）

○一月の居間と厨に富士ふたつ （いちがつのいまとくりやにふじふたつ）

○読初や江戸下町の人情物 （よみぞめやえどしたまちのにんじょうもの）

○まず一句指に数えて事始め （まずいっくゆびもまじえてことはじめ）

○駅伝の箱根を降りる三日かな （えきでんのはこねをおりるみっかかな）

○初夢やくくっと笑う人の横 （はつゆめやくくっとわらうひとのよこ）