湯豆腐

          〇湯豆腐を掬ってもらふ崩れぬ仲

             (ゆどうふをすくってもらうくずれぬなか)

           

            〇湯豆腐の湯気の此方に並ぶかな    河童三子

            〇湯豆腐や死後を認めぬ人と食ぶ    々

            〇湯豆腐や雨音きえて雪になる     々

 

     婆ごころ

 

 〈此の一句〉

  〇湯豆腐やいのちのはてのうすあかり    久保田万太郎(1889━1963)

  湯豆腐の句では一番に万太郎のこの句を思い出す 湯豆腐の白さや脆うさで人生の儚さを詠っているのだ 私生活に於いても妻が自死し 後年息子もまた自死している この世の闇を抱えながら 己のいのちをも見据えていたのかもしれない。(万太郎の最後は料亭で食物を喉に詰めて窒息死している)

 実は俳句を作りはじめて 初めて句集を手にしたのは 久保田万太郎なのだ ふらんす堂「万太郎の一日一句」小沢實著の一冊だった どんなに努力しても 永遠に辿り着かない彼岸か。(ブルばあちゃん)

枇杷の花

           〇枇杷の花ジェネリックにて生き延びし

                (びわのはなジェネリックにていきのびし)

           

            〇枇杷の花むかし長屋の子沢山    河童三子

            〇軽口をたたいて寒し枇杷の花    々

            〇この庭に子の声なくて枇杷の花   々

 

     婆ごころ

 

  早朝から ブルばあちゃんの 山の裾野に煙が棚引いていました どこかのお百姓さんが収穫ずみの乾燥した芋がらなどを焼いているのでしょうか 煙は広がりながらゆっくりゆっくり 雲と一緒に東の方向へ流れています。 

 遠い団地の家並みは東面だけ 鮮やかな朝の光に輝いています その光る方に向かって 出勤の車が走って行きました。一台 また一台 つぎつぎに 月曜日から金曜日までの朝の時間です 団地の中はもう空っぽかもしれません。

 熱いおちゃを飲みながら ブルばあちゃんはストーブの横から なかなか立てません 体がおかしくなった訳ではないのです 今朝は寒く心が挫けていたのです。

 二杯めのお茶を飲みほすと エイヤーと気合を入れて立ち上がりました。(やっぱり元気だった)

              〇狸谷北風に舞ふ木の葉銭

              (たぬきだにきたかぜにまうこのはせん)

          

           〇平成の狸子もなく木の葉髪       河童三子

                〇ポンポコリン貉(むじな)こぞりて年忘れ    

           〇掛帳持つ陶の狸に師走かな            々         

  婆ごころ

 ブルばあちゃんは今月の血圧の薬をいただきにクリニックへ行きました 血圧測定では上が112で下は47mmHgで いつもになく血圧が低いのです さては今朝間違って2回も薬飲んでしまったのかな?最近は飲み忘れることもしばしばあったのです。

 先日お世話になっている方々へ さぬき饂飩を送っていたのですが 次々着荷の連絡も入って 住所などまずは間違わずに 書けていたという事で ブルばあちゃんも一安心でした(やれやれ年はとりたくないね) 

 

       もひとつおまけに     〇藤吉つぁん貉の穴に年末詣で

   さて 藤吉とむじな(貉)のお話し ご存じですか? ゆめゆめ騙されませんように。                

冬日

             〇冬陽選り六角堂の鳩歩む

               (ふゆひえりろっかくどうのはとあゆむ)

              

            〇冬日射し手術の予後のまた伸びし    河童三子

            〇日当りを求めて歩く冬の鳩       々

            〇きのふより今日おとろへて冬日受く   々

 

     婆ごころ

   

 京都、滋賀から戻って漸く ブルばあちゃんは12月(師走)を自覚し始めました。

半年ごとの定期健診も まるで物み遊山か何かのような形になって 反省も含めてちょっと振り返ってみる必要があると思っていました。

 2021年の1月4日午前9時30分 昔でいう仕事始めの 最初の手術台に上ったのです 8時間以上の手術の間すっかり麻酔で眠りこけていたのです 術後もそれほどの苦痛も感じなく(?)回りの温かい援護に支えられて今日に至っています 年があけると術後まる4年で 本当は気が抜けない時期なのです。

浅漬け

           〇浅漬けの色はんなりと京の彩

             (あさづけのいろはんなりときょうのいろ)

           

           〇朝粥に浅漬けしぼり添えにけり      河童三子

           〇浅漬けに京の思いで鏤(ちりば)めし    々

           〇浅漬けの赤白緑京の彩          々

 

     婆ごころ

  

  

 浅漬けの美味しい気候になりました ブルばあちゃんの従妹も いろいろと野菜をお漬物にしていました ブルばあちゃんが特に「日の菜」のお漬物が好きなのを知っていましたから それも収穫して漬けておいてくれたのです。

 日の菜は葉っぱを付けたまま塩をして揉み2,3日置いてしんなりしたら 好みに切って今度は甘酢に着けます。甘酢に浸けると鮮やかな紅彩に変わって 美しいし美味なのです。

 

 ブルばあちゃんのキッチンには 拳ほどの石が幾つも置いてあります いつでも浅漬けの出番を待っているのです。

狐火

            〇狐火や土葬に苔のしめり哉

             (きつねびやどそうにこけのしめりかな)

                     

               〇村長の狐火談義目がひかる     河童三子

            〇狐火や夜空に走るドロン砲     々

            〇狐火にも見まよふ岡の我が家の灯  々

           

     婆ごころ

 

  滋賀県甲賀町は 甲賀流の忍者の里でした 子供のころ「猿飛佐助」の漫画本は読みましたが 東寄りの伊賀上野には 伊賀流の「霧がくれ才蔵」という忍者がいて  互いに敵対して戦っていました。

 それがブル婆ちゃんの暮していた田舎とは何の縁もない場所だったのです なにより その頃には 甲賀という名前はどこにも存在しなかったのですが 平成の市町村大合併で甲賀市甲賀町が誕生して にわかに甲賀流忍者も現れたようなのです 忍者屋敷というからくり館も建てられました。

 

 ブルばあちゃんの従妹のTさんは 京都に自分の家があって この甲賀の先祖の家も継承しています だから定期的に京都から甲賀へ車で行って 家や畑の世話をしています 後期高齢者になっていますが 畑には色々な物を育てて至って元気にしています ブルばあちゃにとっては この従妹が唯一故郷を結び付けてくれる人なのです。

 

 さてこの村にはまだ土葬のお墓が残っているのです ブルばあちゃんの叔父が最後の埋葬者で 低くなった土盛りは苔むし その場所を暗示するようにありました 墓地の回りは大きな樹に囲まれて いつもうす暗くひんやりしていました ブルばあちゃんは ひいばあちゃん 祖母 祖父の埋葬にもここへ来ています 子供のころに 雨の日には火の玉が飛んでいるのを見たという 村人の話も聞きました 畑山家のお墓に手を合わせながら ここに立つのもこれが最後になるかもしれないと思いました。

十二月

          〇十二月コンテナ船の荷揚げ待つ

             (じゅうにがつコンテナせんのにあげまつ)

           

            〇遠海に朝日しみ沁み十二月     河童三子

            〇十二月猫と見てゐる遠い山     々

            〇衰へて五感寂しき十二月      々

 

     婆ごころ

    

  暖かで穏やかな12月の始まりです 庭塀の棟瓦が朝の光に輝いてみえます ブルばあちゃんは午前中パートナーさんと山へ出かけました。

 こちらの山の紅葉は毎年あまり進まないまま終わってしまうのですが どうやら今年も例外ではないようです 緑の葉がどんよりと濁って見える山を縫って トンネルを抜けて 奥の山郷にでるとダムの湖があります ほとんど砂州を見せているそのダムに 今年は結構貯水があって魚を釣るボートや カヤックがのんびりと浮いていました。

 ブルばあちゃんのお目当ては 山肌に咲いている南天なのです あんまり暖かかったので お正月に活ける南天の出来栄えの下見ですこの数年 庭の南天は此の時期まで実を着けていたことがないので お正月は山の南天をもらうことにしているのです。

 南天の木は すぐ見つかりました けれど何故か実は真赤ではありません 少し茶色っぽいのです これからもっと寒くなると赤くなるのかもしれません 次回を楽しみにブルばあちゃんは山を下りました。